雨を降らせたでいだらぼっち

千葉県柏市

昔、布施村近くにでいだらぼっちという大男が住んでいた。その背は三メートルもあったが、とても優しく、少しぼーっとしてはいたが、子どもたちはこの大男が大好きだった。そんな村をある年大変な日照りが襲った。田畑は干上がり、井戸水も涸れ、人々は困窮して集まり相談を繰り返していた。

そのさなか、でいだらぼっちは「布施の弁天さまをひとまたぎする者がいたら雨が降る」という夢を見、村の人にそれを話した。皆は、何を馬鹿な、罰当たりな、と相手にしてくれなかったが、日照りはなお続き、村人たちの元気がさらになくなり、子どもたちも外で遊ばなくなった朝、だいだらぼうはむっくりと起き出した。

そして彼は布施の弁天さまのほうを見つめ、この村が好きだ、村の子どもたちが大好きだ、とつぶやくと、弁天さまめがけてゆっくりと歩き出した。すると不思議なことに、でいだらぼっちがずんずんと大きくなっていき、しまいには頭が雲の上に出るまでになった。

地上には毛むくじゃらの足だけが見え、歩を進め地面を揺らし、そうしてついに布施の弁天さまをひとまたぎにしてしまった。途端に空は黒雲に覆われ、大粒の雨が降り出した。稲は生き返り、人々は雨の中を踊り狂って喜んだが、その雨の中にでいだらぼっちの姿はもうなかった。

その後も彼を見た者はなく、仲の良かった子の話では、利根川をまたぎ筑波山のほうへと歩いて行ったということだった。この時の左足の跡があけぼの山公園下に、右足の跡が宿連寺の天王さま近くに今も残っている。でいだらぼっちの足跡は、他に逆井や酒井根、高田にもある。

柏市webサイト「柏のむかしばなし」より要約

好きな村人のために、上位の神(布施弁天・竜王)の逆鱗に触れ雨を降らせるという同じ構成の話となっている。印旛沼の三つに裂かれた竜に比べると、でいだらぼっちは去っただけだが、弁天をまたぎ罪な存在となったが故にもう村にはいられない、ということではあるだろう。

この類似は見逃せない。印旛沼の竜の話には、これは死体化生神話が底にあったんじゃないかと思わせる点が少しあるのだが、巨人伝説が同構成で語られていたとしたら、その可能性は高まる(印旛沼にもまた、巨人の小便の跡だというおなじみの伝もある)。

また、これはこの話で思いついただけだが、全体的に「ものぐさ太郎」の雰囲気があるところにも注意しておきたい。信州小太郎がまたものぐさ太郎の面を持つことを思えば、そちらを経由してもまた竜蛇とつながる話となる。