昔、平将門に桔梗ノ前という美しい愛妾がいた。将門公は朝廷を凌ぐ勢力を持ったが、俵藤太秀郷や平貞盛に敗れ、滅亡することとなった。最後の激戦の最中、将門公は矢傷を受け、桔梗に落ち延びるようにいった。桔梗は別れを惜しみながら、守本尊の正観音像を負い、船橋にやって来た。
数日後、将門の死が伝えられ、桔梗は気が狂わんばかりに悲しんだが、天沼の近くに庵室を建て、将門の弔いに明け暮れる日々を送った。しかし、深い哀愁の思いの去来する中、ついに桔梗は、御前様の前に参りたい、と何かを決心した。
二三日後、正観音像を抱いた桔梗が漁師町に姿を現した。船を雇うと、船橋浦の遠ヶ澪(おちがみお)まで来、そこでざんぶと海に身を投げ、果ててしまった。それから、この遠ヶ澪には、見たこともない大きな鮫が棲むようになった。漁師たちは桔梗ノ前の化身に違いないと信じ、網を入れることを戒めた。