昔、村に喜兵衛という人がいた。喜兵衛はふと訪ねてきた妙齢の婦人と夫婦となり、かわいい子供も授かったが、なぜか妻は一言たりともその身の上を明かさなかった。
ある晩、ふと喜兵衛が妻の部屋を覗くと、美しくいとしい彼女は、世にも恐ろしい大蛇となって眠りこけているのだった。思わず叫び声をあげた喜兵衛に気付き、正体を知られた妻は語った。自分は榛名湖の竜神であるが、喜兵衛の厚い情にほだされて長いこと世話になってしまった、と。
そして、これで別れとなるが、お礼のしるしに、榛名山に鳥居を奉納するなら、あなたの村から雹の害を除きましょう、といって、にわかに雲を呼び風を招くと榛名の湖に姿を没したそうな。これに従い鳥居を納めてより、村は一度も雹が降らないという。なお奥方のおかいどりは毛呂本郷の出雲伊波比神社の流鏑馬の母衣として今も残っている。
毛呂のまたの榛名の竜蛇の話。一方は土地の長者・勝田家の娘に榛名の竜神が化生したという話が語られる(「毛呂の榛名の申し子」)。娘の話は岩井、この女房の話は毛呂本郷の話だが、徒歩でも30分ほどの近くであり、こう話が分かれているのは面白い。
しかし、こうなるともうほとんど各地に多くある「蛇女房」の話であり、目玉に代表される蛇の宝で子を育てていた、という部分が榛名講の雹よけの話にスライドしているだけといえる。汎用の筋を土台に土地の伝説が形成されている非常に分かりやすい事例といえるだろう。