有馬渕

埼玉県飯能市

有馬山の谷間にある渕は竜が棲むといい、越生の竜ヶ谷・竜穏寺が中興した時にそこの渕にいた竜が有馬山に飛んできて大池を造ったものだという。ここは雨乞いの渕として知られ、竜泉寺の僧が血脈を投じ、水面が渦巻き水底に沈めば竜神の感応があったとされ、いかなる旱年にも雨が降ったという。

近隣はもとより、浅草や神奈川県愛甲郡といった遠方からも水をもらいに代参が来たと記録にあり、戦後まで行われていた。その水は途中とどまることなく各村へ届けられねばならなかったので、遠い村では途中に若者を配置してリレーで運んだり、電車を利用するときには車中で足踏みしていたという話さえある。

有馬渕の竜は竜ヶ谷から来た尾がない竜だという。また、悪いことばかりしたので勇者に二つに切られ二頭の竜になり、一頭が越上山の藤渕へ、そして一頭がこの有馬谷にやってきたのだなどともいう。

韮塚一三郎『埼玉県伝説集成・下巻』
(北辰図書出版)より要約