大日向神社の御神体は、諏訪湖の大蛇の尻尾だという。尻尾を拾ってきて御神体と祀った。神社周辺は雨沢というが、この地区は不思議と跡取りの男の子が生まれない。生まれても死んでしまい、婿取りのところが多い。
それは、大蛇の尻尾が御神体だから、家の系統が切れるのだ、という。また、大日向神社を拝むと、片目が小さくなるともいう。自分もそうだが、この村にはそういう人が多い。これには次のような話がある。御神体の大蛇の尻尾に、たまたま目玉ができたのだという。神様となったから。
石垣が崩れたので修理しようとして、大きなかなてこを差し込み、ひとつの石をこじったところ、その下に大蛇がいて、一方の目をつぶしてしまった。そのために大日向の人は片目が小さいと。そういう言い伝えがある。
大日向というところの小さな神社さんの伝説。そこの水場が諏訪湖と通じていて、こっちが尻尾なのだ、というようなことをいうケースは多いが、これは尻尾を「拾ってきた」といっているのだから、やや毛色が異なる。
しかも、神と祀られたのでその尻尾に目が出来て、再び大蛇と化したのだ(ということなんだろう)、とこれはかなりユニークな出自の神蛇であるといえる。ちなみに、片目が小さいというと日光・宇都宮の方の赤城の百足の呪いが有名だが、上州にもこのモチーフは多い。
まったく他に類例を見ない話なので、繋げようもないほどなのだが、榛東のほうに、蛇聟と人の娘の間に生まれた子蛇には目がなく、母が目を与えた、という話がある(「蛇の目」)。あるいはそういう方向か。