養蚕で繭はたくさんあるほどよく、この虫を「お蚕さま(おこさま)」といってありがたがりもした。蚕にはねずみが第一の敵で、昔は猫いらずもなく、ネズミ捕りの機械もなく、枡おとしがあったくらいだった。それではねずみはどんどん増えるので、神さまにお願いをしたものだった。
鷺宮の咲前神社は、よくお願いを聞いてくれ、お参りしてへびを貸してくださいと頼むと、帰ればもう梁や棟に白いへびがニョロニョロ這いまわって、暴れていたねずみを片端から捕ってくれるのだった。蚕がすむと、お赤飯をもって、お礼参りをしたのだという。
原題は「白へび」だが、他にも安中には白へびという話があるので、神社名を添えた。鷺宮の咲前神社は一宮・貫前神社のうち抜鉾神社の旧鎮座地(先の宮)と伝えるところで、諏訪に退いた建御名方神の動向を経津主神が見張ったところだったという神の代の地だが、この神が蛇を貸すのかというとそうではない。
養蚕守護として蛇を貸したりしたのは、境内社の絹笠明神のほう。これが周辺地域によく知られた信仰だった。境内にはまた、根子石(猫石)があり、大石の周りの白い小石を借りていくと鼠除けになったという。
絹笠明神というのはこの碓氷地域から信州、また秩父のほうへかけて信仰された養蚕守護の女神だが、その出自はよくわからない。藤岡のほうではこちら碓氷のほうではなく、秩父の絹笠さんに行ったといい、同じようなことをしている(「三峯神社の絹笠様」)。
猫石というのは絹笠明神に限らず蚕の守護をするもので、富岡七日市の蛇宮神社にもある(孕み石という大石の周辺の小石をいう)。猫も鼠を捕るので養蚕守護になるということなのだが、どうも蛇と並ぶ。
ところが、これ(猫と蛇)がよくわからないつながりをした挙句にまったく異なる祀りかたをされている事例もある(「猫石」)。女を蛇から守るものとして厠に置かれるというのだ。また別物なのかもしれないが、一応視野には入れておきたい。