釜井の大鰻

茨城県稲敷市

昔、釜井に長兵衛という者がいて、近くの立霧の池で大ウナギを見つけた。あまりに大き過ぎるので、家から弓矢を持ってきて、ウナギの目にねらいを定めて矢を放った。矢は見事にウナギの片目に命中し、ぐったりと弱まった。長兵衛はこれをつかまえ、家に持ち帰って、いろりの火で焼いたが、脂肪が多く、七日七夜に及んでも皮すら焼けない。長兵衛は「これはただのウナギではない」と驚き、「たたりがあるかもわからない」と心配し、ウナギをもとの立霧の池に放すことにした。水中に放すと、今まで死んだようになっていたウナギは生き返り、元気よく水中に泳いでいった。長兵衛はたたりを恐れ、池の近くにウナギの宮を建ててまつった。これ以後、この池にすむウナギはすべて片目になったという。(稲敷郡東村釜井・『常陸の伝説』)

『日本伝説大系4』(みずうみ書房)より

『大系』では、村松虚空蔵尊にも関わる阿漕が浦の片目魚の類話として掲載されているが、釜井のほうの虚空蔵信仰とは、というと現状不明。霞ケ浦周辺の鰻の話は必ずしも虚空蔵信仰のものとは思われないところもある。