朝房山を昔、晡時臥山といい、努賀比古、努賀比羊という兄妹が住んでいた。ある日、どこからか若い男が来て妹と親しくなり、夫婦となったが、男は数日後に姿を消した。妹は妊娠しており、月満ちて、一匹の小さな蛇を生んだ。兄妹は驚いたが、この蛇は夜になると口をきき、神の子であろうと思われた。
そこで清らかな甕に入れ、祭壇を設け育てたが、すぐ甕いっぱいの大きさに育ち、大きな甕に変えてもすぐいっぱいに育つ。もはや兄妹にはどうすることもできなくなり、母は子蛇に、お前は神の子で、自分たち一族では育てられない、父のいる天に帰るがよい、と諭した。
子蛇は嘆き悲しんで、母の言には従うが、心細いので従者をつけてくれるよう頼んだ。しかし、家には兄妹しかおらず、それはできぬと母は答えた。すると、子蛇は恨みを抱いて怒り、伯父である努賀比古を打ち殺し、昇天しようとした。
ところが、これに怒った母の努賀比羊が甕を投げつけると、甕に触れた蛇は昇天することができずに朝房山に落ちてしまった。朝房山の頂上には蛇神を祀る朝房権現があり、二月の初とりの日の祭礼は今も行われている。