ごぜさんがその峠に差し掛かり、松の根に腰を下して休んだところ、それは松ではなく大蛇であった。大蛇はごぜさんに、自分はこの山をひと回りまわって、山を噴火させようと思う、という。そして、このことを村人に話したら命はないぞ、といった。
ごぜさんは魂げたが、麓に下りて、噴火して湖になってしまうぞ、と事の次第を村人に話した。それでそのごぜさんは命を取られてしまったが、村人たちは総出で蛇狩りをしたので噴火はしないで助かった。
話自体は琵琶法師と竜の話型(「精進ヶ池」など参照)で、蛇が村を泥濘と化すつもりだ、というところを山を噴火させる、といっているところが得意な事例。それで湖なるといっているので、全体の結構は枠組み内のものだが。
ところがその「おりわ峠」がどこにあるかわからないのだが、実はこれは福島の人が高萩に嫁に来て語った話で、舞台は福島県内になるらしい。同じく微温湯(ぬる湯)温泉の話などしている人なので、そちらのほうかもしれない。
そのような話をここで引いたのは、これが常州に見る御前さまの伝説・水戸黄門さまがやってきた、という話と混線していく要素がある、ということのため。「ごぜさん」とは瞽女(盲御前)さんだが、『茨城の民俗16』に引かれた同話では表記が「御前さま」になっている(日文研DBも同様)。
この地で単に御前さまといったら水戸黄門なので、天下の副将軍が蛇の言を村に伝えて死んでしまったというのか、とそれだけ見ると驚くのだが、『高萩の昔話と伝説』のほうを見ると明らかなように、それは瞽女さんの話だったということである。