箱根村の尺八の名手で、盲目のあんま、名を庄次という男が二子山の麓の池で毎夜尺八を吹いていた。すると美しい女が聞き入るようになり、やがて二人は深い仲になった。
ところが満月を明日に控えたある夜、女は泣いて別れを告げた。自分は実は池の大蛇なのだといい、年満ちて明日昇天するのでお別れだと。土地は泥海と化し、村人は死に絶えるだろうから、庄次だけは逃げるように、ただし決して他言はせぬように、と女はいった。
庄次は驚いたが、村に帰ると一部始終を皆に打ち明け、下山した。村は大騒ぎとなり、物知りの発案でヘビの嫌いな金物を次々と池に投げ込むことになった。たちまち大嵐が山を揺るがしたが、おさまってみると四斗樽ほどもある大蛇の屍が池に浮かんでいた。
そのころ、芦ノ湯から湯本に通じる日和見坂に庄次の息絶えた姿が発見された。全身に蛇の鱗が突き刺さっていたという。なお、このとき金物を池に投げ込んだせいで、池の魚も死に絶えたので「精進ヶ池」と呼ばれるようになったのだという。別には、庄次の名を一字違えて付けたのだともいう。また、男は江戸日本橋のもめん問屋の息子金之助という者が芦ノ湯松坂屋に病気療養に来ていたのだ、という話もある。