鮫の松川様 福島県東白川郡鮫川村 鮫川の水源地が東野の奥にあって、鮫池という。年に一度、大きな鮫が杮落としにそこへ上ってきて、一ヶ月くらいいて、堤を切って大水に乗って、今の植田へ帰った。植田は町制前は鮫川村といった。鮫川村は二つあったのだ。 上ってくる鮫は松川様という。上ってくるのは入梅時期というから五月ごろだろう。鮫の通った後は、一ヶ月くらい空気が生臭かったという。また、その姿を見ると目が潰れるといって外に出なかったらしい。 ざっと昔を聴く会『東白川郷のざっと昔』(ふるさと企画)より要約 この鮫が鮫川および鮫川村の名の由来なのだという。松川というのは、勿来の九面(ここづら)の海にある磯の名・松川磯のことで、そのヌシなので松川様という(「菊田浦の大鮫」)。 それでそもそもこの鮫が何者なのかというと、中野の長者の娘がその水源地・鮫池のヌシの化身であって、これが下り上りするのだ、という話がまずある(「化身した黄金の鮫」)。 一方で、女から逃げて、江州から鮫川に来た男を、その女が追ってきて川に流され鮫となったのだ、その鮫が上ってくるのだ、という話(「鮫川村の由来」)もある。 どちらにしても蛇の話のようなのだが、上の話を見ると気になる点もある。鮫が上るのを見てしまうと目が潰れるというところだが、これは東北地方に多くある、鮭の大助の遡上伝説と似た雰囲気がある。「鮭の大助、今のぼる」という声を聞いたら死んでしまう、というようなものだが、近いだろう。ただし、大助の遡上は冬のことであり、入梅に上るというあたりはやはり蛇のようだろうか。 ツイート