化身した黄金の鮫

福島県東白川郡鮫川村

昔々、赤坂中野に長者夫婦がおり、何不自由なく暮らしていたが、子に恵まれなかった。そこで、氏神様に一心に願い、女っ子を授かった。女っ子は紀美と名付けられ、大事に育てられ、年頃になると岩代の果てまで知らぬものはないほどの美しい娘となった。

ところが、紀美は次第に顔色が悪くふさぎがちになっていった。両親は医者よ薬よと手を尽くしたが効果がなく、ついには床についたまま、死を待つばかりになってしまった。そして紀美は、死ぬ前に一度渡瀬にある大きな池を見たい、と言い出した。

そこで籠をしつらえ、娘とお供たちは池へ向かったが、池に着きじっと水面を見つめていた紀美は、身を躍らせて大池に飛び込んでしまった。突然のことにお供の者たちが驚きあわてていると、水中から異様な唸り声が聞こえ、目も眩むばかりの黄金の鮫が水面に現れたのだった。

鮫は、自分はもとより池の主だったが、浮世に出てみたくて中野の娘となったのだ、と語り、礼を述べ父母にも伝えるよう言い、水中に消えた。長者夫婦の嘆きは大きかったが、気を取り直して紀美の寝ていた床を調べると、そこには三枚の黄金の鱗が落ちていたという。

それから、大池は鮫池と呼ばれるようになった。長者家は以後代々栄えたが、娘を育てた夫婦が世を去ると、鮫は池を出て竹貫から植田を通って磐城の海に行ったという。それでその川を鮫川と言い、鮫川村と村の名にもなった。

さめがわ民話の会『鮫川のむかし話』
(鮫川村教育委員会)より要約

全体的には、色々さまざまな川にまつわる話が、「さめがわ」の川の名でつながっていった、というように見える。では「さめがわ」とは何か、というと現状不明だが、あるいは寒川などと同じような名ではないか、とも思う。