蛇に見込まれた娘

福島県大沼郡会津美里町

昔、山奥に母とめごい娘がおり、山菜など採って暮らしていた。ある時、一人の若い男が来て、一夜の宿を乞うた。母娘は温かく迎え、粥などご馳走して寝かせたが、たくましい若者だったので、娘は心惹かれ親切に世話をしていた。

その若者は、朝になると母娘が止めるのも聞かずに去ったのだが、夕方になるとまたやってきて泊まるのだった。それが毎日のことになりいつか夫婦のようになった娘は身ごもった。しかし、昼間は姿を消す若者の得体が知れず、母は和尚さまに相談した。

和尚は、それは何かの化身かもしれない、といい、長い糸を付けた針を若者の着物に刺して、追ってみるよう教えた。母娘がそのようにして、次の日に追うと、糸は峠を越えて大きな沼に続いており、沼の草藪には大きな蛇が昼寝をしていた。

驚いた母娘が声を上げると、正体を知られた大蛇は鎌首を持ち上げ追ってきた。母娘はすんでのところで菖蒲のたくさん生えたところに逃げ込み、大蛇はあっちこっち探していたが、あきらめて去ったそうな。母娘は蛇が来なかったのは菖蒲のせいだと気づき、菖蒲湯に娘を入れると、蛇の子が流れ出て、娘はきれいな身体になった。この日が五月五日だったのだという。

みさと民話の会『会津 みさとのむかし話』
(歴史春秋出版)より要約

また、この話では、蛇の子を堕ろすのこそ、菖蒲と蛇の相性の悪さのように語っているが、その前の追ってくる蛇から菖蒲の茂みに隠れる時点では、「蛇が見つけられない」というニュアンスであり、菖蒲が嫌いだ、とはいっていない。