天明年間枝松村に越後生まれの筏師の己作という渡世人が居り、ばくちは打つが人となりは良く、村人からは好かれていた。魚は食うがそれ以外の無益な殺生はせず、殊に生まれ年の蛇は大事にした。その己作が湯元温泉の賭場で有卦に入り、大儲けして大酒を飲んで帰途についたが、途中酔いつぶれて桜木渕のほとりで寝込んでしまった。
その後、起きて帰ったが、大金を包んだ風呂敷を忘れてきたのに気がついた。すぐ取りに戻ろうとしたが、体がいうことをきかず、二三日静養してから行くと、大金はもとのまま風呂敷に包まれ、桜木渕の草むらの中に無事見つかった。
しかし、確かにそこで泊まり、大金を出して見せるな、と忠告してくれた添い寝の美女に忠告され歓待されたが、宿も見えず大金もそのままと解せない。美女は己作に昔助けてもらった恩もある、などとも言っていた。不思議に思った己作は近くの村人に聞いたが、桜木渕にそんな茶屋などないという。
ただ、ある人が、その桜木渕には水神様の使いのオロチが棲んでいるので、大蛇が大金を守ったのではないか、と教えてくれた。大金をばら撒かれては、金気にあてられ蛇も危ないし、大雨が降って大洪水にもなってしまう。水神の神慮だったのだろう、と。