おろち柳

福島県郡山市

文政の頃、中地村に牛右衛門という渡世人がいた。ばくちは打つが、人となりは良く、村人からは好かれていた。その牛右衛門が三代宿の賭場で有卦に入り、大儲けして大酒を飲んで帰途についたが、途中酔いつぶれて堤の大柳の下でぐっすり寝てしまった。

その後、起きて帰ったが、大金を包んだ風呂敷を忘れてきたのに気がついた。すぐ取りに戻ろうとしたが、体がいうことをきかず、二三日静養してから行くと、大金はもとのまま風呂敷に包まれ、堤の草むらの中に無事見つかった。

しかし、確かにそこで泊まり、大金を出して見せるな、と忠告してくれた乙姫様のような芸者に歓待されたのだが、宿も見えず大金もそのままと解せない。芸者は牛右衛門に昔助けてもらった恩もある、などとも言っていた。不思議に思った牛右衛門は近くの村人に聞いたが、そんな家などないという。

ただ、ある老人が、その柳の堤には水神様の使いのおろちが棲んでいるので、大蛇が大金を守ったのではないか、と教えてくれた。大金をばら撒かれては、金気にあてられ蛇も危ないし、大雨が降って大洪水にもなってしまう。水神の神慮だったのだろう、と。

牛右衛門は、若いころ、堤の柳の木のほとりで、子どもたちが蛇を殺そうとしているのを止めて、蛇を買い取り放した。その蛇が水神様の庇護で大きくなり、奉仕していたのであろうと伝えられる。

郡山市教育委員会『郡山の伝説』より要約

湖南町中野の半沢卯右衛門氏によるとあり、その名からすると御先祖の話であるのだろうか。ちなみに中地村と安佐野村を併せて中野というそうな。その中野から三代というと、舟津川を渡るあたりに大柳があったのだろうかというところだが、不詳。おろちが柳であるというようにはっきり語られてはいないが、話の題からすると、おろちの化身とも思われていた柳だったのだろう。

筋だけでなく、その表現まで通じる部分があるので(ばくちは打ったが人が良いので人には好かれた渡世人であるとか、賭場で有卦に入って儲けたとか、忘れた金を取りに戻ろうとしたが体が動かないとか)、何らかの理由で最近そのまま移されたもののように見える。