髪長様

岩手県宮古市

昔、長沢の大藤武一家の嫁が三月三日に里帰りしてうりが島に「そび(潮干狩り)」に行った際、波にさらわれてしまった。一年たったら帰ってきた。身持ちになって岩の上に坐っていた。竜神さまの嫁になったのだと皆いった。

長沢に戻り、産まれた娘は水の中から上がってきた者なので海女(うんなん)と名付けられた。この娘が竜神さまの子の髪長さまだという。一丈二尺の長い髪の人で、後ろに桐の箱を持って髪を入れて歩いていたそうな。大きな松があり、髪長さまが寄りかかって髪をかけて梳っていたという。

坂上田村麻呂が話を聞いて探しに来たが、髪長さまは行きたくないと逃げ回ったという。また、神楽衆が連れていったともいう。長沢にはこの髪長さま・海女(うんなん)さまのお堂があり、三月三日にお祭りをする。

『宮古市史 民俗編(下巻)』より要約

東北に「うんなん」という鰻とも山椒魚ともされる水神格があり、雷の落ちた田に祀るなど、雷神・田の神の面も強い。しかし、中には「田の神」という線からは大きく外れる、このような海際のうんなんさんの話もあるのだ。

海人たちが伝えた話だと思われる髪長姫の伝説は紀州のものが有名で、日向の方にも同系話があるが、はっきり「竜神」と出てくるのはこの三陸宮古の伝説である。この話は、『聴聞草紙』にもあり、折口信夫も一緒に聞いていたというから、よく知られた話ではあっただろう。

そしてこの母が海に引かれた日が旧暦の三月三日であるという点が大変に興味深い点だ。この時季が一年で最も汐の引く頃であり、普段は海中にある部分が姿を見せる。これが潮干狩りの日であり、沖縄では女が浜に下りて蛇の気を落とす日でもあった。