蛇婿と脱殻節句の由来

青森県むつ市

あるところに、爺さまと婆さまがおり、娘が三人いた。ある時、爺さまが田を見に行ったら、すっかり水が枯れてしまっていた。気落ちした爺さまは、田に水をかけてくれる人がいれば娘を嫁にやるのに、とつぶやいた。すると翌日、田にはすっかり水が戻っていた。

爺さまが驚いているとつるっと禿げた坊さんが出てきて、水をかけたのは自分だという。言った通り娘を嫁にくれ、と坊さんはいった。爺さまは、これは人ではないと思ったが、また水がなくなったら皆共死にだと思い、娘たちにわけを話した。

長女次女は嫌だといったが、三女が承諾し、坊さんは三女を嫁として連れていった。そして一年後、二人が七月一日の節句に里帰りに来た。しかし、寝部屋は覗かないようにと娘はいう。気になる爺さまと婆さまが夜中に寝所を覗くと、そこには大きな蛇がとぐろを巻いていた。

爺さまは驚いて声を上げてしまった。翌朝坊さんと娘は去り、次の年からは来なくなってしまった。そして、代わりに家の裏の竹薮に大きな脱殻(むけがら)を残していくようになった。これが七月一日の脱殻節句のはじまり。

『むつ市史 民俗編』より要約

前半は典型的な水乞い型の蛇聟で、後半は比較的数少ない娘変身型の蛇聟の話になっている。ともあれ、要するに話は蛇聟なのだが、これが「むけの朔日」の起源として語られているところが面白い。

むけの朔日は龍学上でも最重要の一件ではあるが、竜蛇譚が併せて語られることはあまりない。非常に貴重な事例といえ、この話題からは必ず参照される一話となるだろう。