夜の起源

門部:世界の竜蛇:ブラジル:2012.05.26

場所:ブラジル
収録されているシリーズ:
『世界神話伝説大系17』(名著普及会):「夜の起源」
タグ:南米の竜蛇


伝説の場所
ロード:Googleマップ

今回は「詳細不明」の一件。ブラジルの民話ということ以外ほぼ何も分かっていない。簡単に英葡語で検索してみたが、それらしいものは見えなかった。だから地図のポイントも単に海際(の話と思われる)の有名な都市、というだけのこと。非常に興味深い内容であり、この成り立ちがどのようであるか知りたいのだが、よく分からない。もし、何かご存知の方がおられましたらご教示下さい、ということなのです。

昔、世界が出来上がったばかりの頃は、朝日も夕暮れも月も星もなく、ただ日中ばかりだった。この頃、大洋の底深くに棲んでいた海の大蛇の愛娘が、大地の上の人間の息子と結婚して、日暮れを知らない大地の上に住むことになった。今まで深く暗く、おっとりとした海の底に暮らしていた嫁は、翳ることのない日の光が苦しく、日ごとに色つやが衰え、痩せ細っていった。夫はどうすることもできずに心配していたが、ある日、嫁が「夜さえあってくれれば」と言っているのを聞きつけた。「夜」というものを知らなかった夫は、それは何かと嫁に問いただし、ぜひそれを入手しようじゃないかと言った。海蛇の娘は、彼女の父の深い海底の国には重々しい陰の夜がある事を話した。そこで夫は忠実な三人の手下を呼び出し、海蛇の王国へそれをとりに行かせることにした。
三人は勇敢にもぐいぐいと深い海の底を目指して進み、それは華やかな館がそびえる海蛇王の宮殿に着いた。三人が「海の大王様、蛇の大王様、海蛇の大王様。奴輩の主人には……」と事情を話すと、王は労をねぎらい、三人に大きな袋に夜を詰めて渡した。そして王は、この袋は娘の手もとに届くまで決して開けてはならぬ、と言った。しかし、帰途の三人は、袋の中から聞こえて来る今まで耳にしたことのなかった夜の鳥の・虫の・獣の鳴き声にすっかりおののいてしまい、ついに一人が正体を見極めるべく袋の口を開いてしまった。
一斉に袋から獣という獣、夜鳥という夜鳥、夜虫という夜虫が飛び出し、墨のような夜の黒雲が噴き出した。それどもどうにか夜は海蛇王の娘のところまでとどき、彼女はゆっくり眠ることができるようになった。こうして世界には夜が訪れるようになった。しかし、海蛇王の言いつけを破り袋の口を開けてしまった三人は、主人に叱り飛ばされ、猿の姿にされ、さらには唇に封蝋の跡を刻み付けられてしまった。今でも猿の口にはこの罰の跡が残っている。

名著普及会『世界神話伝説大系17』より要約

海の底に海蛇の王がいて宮殿に住んでいるのだ。多分大西洋側の話だと思うが、「ママ・コタ」の稿でも少しふれたが、これは南米に「竜宮感覚」があったのか、どうか、という問題と繋がる。

ぎょうせい『世界の民話11 アメリカ大陸1』にも「どうして夜ができたのか」のタイトルで同様の話が収録されている。こちらは一応「インディオの昔話・黒人の昔話・白人の昔話」と分類されており、この話は「インディオの昔話」にある。一方、新世界社『ブラジルの民話(北東部編)』には見ないので、北東部ではない、かもしれない。いずれにしても、このくらいしか分からない。印象としてはアマゾン川の方は大蛇は川の怪として語られる感じが強い(炎の蛇だが)ので、海に海蛇の竜宮というのはまた別の感覚なのだろう。

同『世界神話伝説大系17』ブラジル篇にはあわれな海蛇ラビスメナの話もあるので(またこれは別に)、ブラジル大西洋側には何かそういった海蛇と海の国の信仰空間があると思うのだが、今のところはこれまでである。

再度、何かご存知の方居られましたらご教示下さい。ということなのでした。

memo

夜の起源 2012.05.26

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