長池の大蛇

門部:日本の竜蛇:近畿:2012.03.08

場所:京都府城陽市
収録されているシリーズ:
『日本の伝説1 京都の伝説』(角川書店):「長池」
タグ:剣と竜蛇/討伐される竜蛇/ナガと竜蛇


伝説の場所
ロード:Googleマップ

三種の神器の一である天叢雲剣(草薙剣)が八岐大蛇の尾から得られたという話は相当に膾炙していて、竜蛇の尾には神剣があるのだというイメージは根強い。どこぞの殿様が「大蛇の尾の剣を取ってまいれ」と刀鍛冶を泣かせたりする。

しかし、実際に竜蛇を討伐したら尾から剣が出た、と伝える伝説は多くない。というよりもほぼない、と言ってもいい。語り継がれる例としてはレアな話なのだ。その珍しい話が、京の南にある。

国鉄奈良線に長池という駅がある。集落の東北方に名前のとおりの南北三〇〇メートル、東西二〇〇メートルという細長い池があった。新野池と呼ばれていた池だが、むかし悪蛇が住みついて通行の旅人に害をなした。それを退治した時に、尾の中から一振の神剣が出てきたので、大和の石上神社に納めたと伝えられている。

角川書店『日本の伝説1 京都の伝説』より引用

ちょっとあまりにもあっさりした記述なので、地元長池駅の公園にあるものを引いておこう。

むかしむかし、奈良街道ぞいに端から端まで三百メートルはあろうという長い長い池があったそうな。そこには悪い大蛇が住んでいて、ときどきぬーっと姿をあらわしては近くに住む人に悪さをはたらいておったんじゃと。若い娘さんなどは、大蛇が池から顔を出してこちらのほうをジロリ、とにらんだだけで腰を抜かして動けんようになってしもうたほどじゃ。
困りはてた村人たちは、「このままでは池の主にみんな丸呑みにされてしまう。なんとか神さんに退治してもらえんやろか」と近所の神社に片っぱしからおがんで回った。するとある日、どこからともなく刀を持った人があらわれ、大蛇をばっさり切り捨ててまた消えて行ったそうや。
村人はびっくりするやら喜ぶやらで、「きっとあれは行基菩薩さんの化身に違いない。ありがたい、ありがたい」とさわいでおったが、死んだ大蛇の尾から立派な剣が出てきたのでまたびっくり。これは神さんに奉納せなあかん、と思うて大和の石上神宮に差し出したそうや。それからは池も静かになり村は栄えましたとさ。

長池駅前広場「長池の伝説」より引用

長池駅前広場
長池駅前広場
リファレンス:山城近辺チャリの旅画像使用

長池の伝説の池そのものは既に消滅してしまったが、長池駅前にはこの大蛇を象った人工池が造られている。また下の「ふるさと昔語り」では、水害が頻発したことも大蛇伝説の生まれた背景にあるだろうとしている。

「長池の大蛇伝説」(webサイト「京都新聞・ふるさと昔語り」)

さて、ともかく石上神宮に奉納されたというほどの大変な剣が出たというのだが、竜蛇と剣の関係というのは難しい所がある。「竜蛇の剣」というのは竜蛇の神気が凝り固まったその化身ということなのか、あるいは竜蛇を切り伏せるような剣ということなのか。八岐大蛇退治からして天叢雲剣・草薙剣/天羽々斬剣・十束剣の双方の神剣が出て来るわけであるが、各地で剣と竜蛇が関係する伝説で両方の側面が見られる。この長池の大蛇伝説は明らかに竜蛇が剣となるわけだ。

しかし神奈川県三浦半島剣崎の伝説などどちらとも言えない感がある。また、そこで引いている熱海初島の伝説も竜蛇が剣となって現われていると言っているようだがはっきりしない。同地域(海域)には伊豆三嶋信仰の神話として三嶋大神が大蛇を討伐した際の剣が祀られもする。これは明らかに竜蛇を切り伏せる剣、ということだ。剣には二つの側面があるということなのだろうか。では、その二つの側面とは何を意味するのだろう。

そのあたりが今ひとつよく分からないでいる。先頭でも述べたように、事例自体が多くないと思われるので比較検討も難しいのだが、ことは三種の神器に関わる問題故に、なにがしかの見通しが立つと周辺諸問題が連鎖的に解ける大物の問いではあるだろう。この長池の伝えた貴重なモチーフをどこに結びつけて行けば良いか。とくと目を凝らして周辺をあたって行きたい。

memo

長池の大蛇 2012.03.08

近畿地方: