出来沼の大蛇

門部:日本の竜蛇:北海道・東北:2012.03.13

場所:山形県東置賜郡高畠町亀岡
収録されているシリーズ:
『日本の伝説4 出羽の伝説』(角川書店):「出来沼」
タグ:生気を得る竜蛇像/竜宮淵


伝説の場所
ロード:Googleマップ

亀岡はすぐお隣に有名な「犬の宮・猫の宮」のある所であり、また日本三大文殊の一とされる亀岡文殊(大聖寺)のあるところでもある。

先に注意しておきたいのだが、この伝説の「亀岡の出来沼」なる沼は今の所確認できていない。この伝説も角川書店『日本の伝説4 出羽の伝説』以外に見ない。どうも現地に行く以外確認できそうもないのだが、大変面白い内容であるので紹介してしまおう。

昔、ある村人に夢のお告げがあり、「よく働くので褒美をやろう。出来沼の底に砂金が溜まっているから、取って暮らしを助けなさい」と白竜湖のヌシなる優しい女神の声に言われた。男が喜び沼に潜ってみると、確かに砂金が溜まっている。
繰り返し砂金を掬い上げるうちに男はすっかり大金持ちになり、野良へ出て働くこともなくなった。これを村人が怪しみ男を見張っていると、沼へ飛び込み砂金を持って帰る様子が知れた。しかし、そのことを男に問うても頑として語らない。
村人たちは、宝をせしめようとするなら黙っちゃいないと、大勢で出来沼に潜って砂金を取るようになった。そこで男は考えて、藁で大蛇を作り、沼の岸に浮かべることにした。次の朝沼に繰り出した村人たちは突然現われた大蛇に仰天して逃げ帰った。
これで砂金は独り占めだと男がほくそ笑みながら沼にいくと、待ち構えていた大蛇が男をひと呑みにして沼の底へ姿を消した。出来沼と赤湯の白竜湖の底は通じていると言う。

角川書店『日本の伝説4 出羽の伝説』より要約

沼底の上漆を兄弟で取り合う島根布部の「頼太水」と宮崎米良の「龍の淵(米良の上うるし)」の話を紹介してあるので参照されたい。同系の話と見て良いだろう(兄弟のモチーフはないが)。

「頼太水」の稿で、この話は竜宮譚の一種なのだと述べたが、まさにそちらに近接する伝説が出羽にあったわけである。特に漆掻き兄弟の方では漆は人に見つけられるが、出来沼の話では白竜の女神によって砂金の存在が告げられているのが際立つ。これはきわめて竜宮譚に近い。

白竜湖
白竜湖
レンタル:Panoramio画像使用

赤湯の白竜湖というのは同山形県南陽市赤湯の湖で、娘が白竜に変じてヌシとなったという伝説がある所。この白竜湖と出来沼は底が繋がっているのだと言い、出来沼に落とした杵が白竜湖の方に浮んだ、などという話もある。いずれ白竜の娘が乙姫であるということだろう。

この系統の話にはなぜ「作り物の竜蛇が生を得る」というモチーフを挟む必要があるのか、という問題がある。欲の戒め(普通はそう了解される)を示すだけなら、沼ヌシの怒りに触れて溺れるなりヌシの竜蛇が出てきて喰われるなりするのでも足りるのだ。きまって「独占するために作り物の竜蛇を据えて他を脅す」→「その竜蛇が生を得て作者が襲われる」という流れが入るのは何かもっと理由があると思うのだ。

私はこれはそこに〝竜宮空間〟が出現していることを示すモチーフなのだと考えているが、この出羽の出来沼の話は大きくそこに近づく一歩だと思う。少なくとも、その方向で論じる際には必ず紹介される一話となるだろう。問題は話の裏が取れないことなのだが……必ず訪ねなければならぬ土地がまた一つ増えて楽しみ、ということにしておこう。

memo

出来沼の大蛇 2012.03.13

北海道・東北地方:

関連伝承:

阿弥陀峰の大蛇退治
頼太水
島根県安来市広瀬町布部
▶この記事へ…