蛇の池

門部:日本の竜蛇:中国:2012.01.21

場所:山口県柳井市平郡島
収録されているシリーズ:
『日本伝説大系10』(みずうみ書房):「蛇の池」
タグ:竜蛇のわたり


伝説の場所
ロード:Googleマップ

竜蛇に人気の池、というのもあるのだろうか。全く異なる二つの伝説の流れから、二頭の大蛇が平郡(へいぐん)島にはわたっているようだ。今回はそのうちの片方の伝説を紹介しよう。「蛇の池」は「じゃのいけ」と読む。

平郡島蛇の池
平郡島蛇の池
リファレンス:山口県公式ウェブサイト画像使用

蛇の池:要約
相ノ浦の池が源平の合戦の血で穢れ、ヌシの大蛇はよそへ移り住もうとした。まず皇座山に行き休んだ。だから今も頂上にはまるく草の生えぬ所がある。その後、大蛇は美しい乙女に化けると浜辺に立ち、漁師の親子の舟に平郡島への渡しを頼んだ。
親子は気味悪がって断ったが、乙女が舟いっぱいの漁を二度まで約束するというので渡してやった。確かに二度打った網で舟いっぱいの魚が採れた。しかし、三度目の網を打つと、網いっぱいの小蛇がかかり、はじめの二度の網で採れた魚も小蛇に変わってしまった。
驚いた漁師が渡した女のあとをつけると、女は松林のかげに白い布を広げて池を作り、そのままその池に入っていってしまった。そして、様々な怪異を見た漁師親子は一年後に揃って死んでしまった。
何年か後、池のほとりで髪を梳いている腰から下が蛇体の美女を見かけた村人が、その頼みをきかずに、村へ逃げ帰って美女のことを話すと、そのまま息が絶えたという。
その後、この池は「蛇の池」といわれ、蛇がとぐろをまいているのを見かけるとか、金気を嫌って鍬や鎌を落とすと必ず翌朝には岸へあげられているとか、池の真ん中の水が暖かいのは大蛇の吐く息のせいだとか伝えられている。(『周防長門の伝説』)

みずうみ書房『日本伝説大系10』より要約

同稿に全四話がおさめられているが、大筋は皆同じである。類話には雨乞いの話が付随するものがあり、蛇の池の水は神水として平時は一切使われないが、日照りの際はこの池の水をいただいて帰ると雨が降るとある。「滴じゃというても粗末にならぬ ここは蛇の池神の水」と俗謡にもうたわれたそうな。

さて、この伝説は伝説そのものというよりこの平郡島の池に「もう一頭の大蛇が渡って来ている」という点が面白い。大分県姫島の「浮田の大蛇」という伝説は、姫島の大蛇がこの平郡島に渡ったと伝えている。「浮田の大蛇」自体は別稿を立てるが(『まんが日本昔ばなし』に収録されている)、今の所今回の相ノ浦から渡った大蛇の伝説と結びつくような所は見えない。これはどういうことだろうか。

考えられることは色々あるが、平郡島のこの池を神池とする二つの集団が見えてきたら面白い。伊予灘によく似た「蛇の渡り」を伝え、しかしその元地が異なる。あるいは伝説の類似と差異が、その二つの集団の類似と差異に呼応しているかもしれない。

さらには、平郡島から四国の佐田岬を越えた宇和海八幡浜・大島にも「竜神のわたり」の伝説があった。どうも豊後水道は竜蛇が泳ぎめぐっていたようだ。

それが何を意味するのかはそれぞれの土地の細かな民俗・歴史を紐解いていかないことには分からないが、伝説の交錯が「そこに何かが見出せる可能性」を先取りすることもあるのだ。それは竜蛇のわたり伝説の見せる醍醐味だとも言えるだろう。

memo

蛇の池 2012.01.21

中国地方: