竜神のわたり
門部:日本の竜蛇:四国:2012.01.08
場所:愛媛県八幡浜市大島
収録されているシリーズ:
『日本の伝説36 伊予の伝説』(角川書店):「竜神のわたり」
タグ:竜蛇のわたり
伝説の場所
ロード:Googleマップ
竜蛇は時々「わたり」を行う。理由は自身が大きくなって棲み家が手狭になったり、偉い神さまや高僧に追い出されたり、行く先の竜蛇と夫婦だったりと様々だ。
竜蛇自身が這ったり飛んだりして渡るさまが自然現象の説明になったりもするが、一方で竜蛇が人の姿に化けて人間に渡しを頼むこともある。渡る竜蛇と人の接触も、竜蛇譚の大きな一面である。
竜神のわたり:要約
五反田の保安寺裏の池に住んでいた竜神が、成長するにつれて池が小さくなり、大島の大入池を次の棲み家と決める。それで、竜神は美しい娘に化け、舌間の海岸で貧乏な若い漁師に声をかけて、大島へ渡してくれと頼む。
若い漁師は了解して娘を乗せて舟を出すが、娘一人にしては櫓が重い、と思いながら大島に舟を着ける。すると、娘はカッと目を見開き「この事を誰にも話さなければ、大漁にしてやる」と言って竜神にもどると、姿を消した。
若い漁師はそれ以来大漁続きで大分限者になるが、金ができると横着になり、竜神渡海のことを誰彼となく話し回ってしまった。すると途端に漁も止まり、また貧乏な漁師に戻ってしまったそうな。
大島へ渡った竜神はというともとの棲み家保安寺が良くしてくれた恩を忘れず、保安寺の和尚の雨乞いに応じて、どんな日照りでも必ず雨を降らせたと言う。
竜蛇に「話すな」と言われて話してしまったら大概死んでしまうことになるので、この漁師は運が良かったと言えるだろう。あるいはこの竜蛇は随分穏やかなのだね、とも言える。
件の保安寺は実際雨乞い祈願の寺として名高いようで、藩政時代の感謝状も保存されているそうな。さて、こう見ると「手狭になって渡った竜蛇」というにすぎないが、この話、後日談がある。
龍王神社と龍王池(大入池)
リファレンス:月の抒情、瀧の激情:画像使用
娘に化けているが、この竜は男竜だったそうで、大島に渡った後、対岸三瓶町の女竜と恋仲になる。そして、今度は女竜が海を渡って大島の大入池にやってきて夫婦竜仲良く暮らすようになったそうな。そしてまたさらに!……と、実はこの竜神譚はものすごい根が深いようなのだけれど、現状私はこれを自分でまとめる用意もないので「月の抒情、瀧の激情」様方の詳細な記事を読まれたい。
▶「宇和海の守護神・鳴滝神──八幡浜・大島の龍神伝説」(webブログ「月の抒情、瀧の激情」)
竜蛇のわたりというのは竜神信仰を持つ一族の移動なり分村・交流なりを示している例がまずある。しかしそれだけかというともちろんそうではないだろう。
ある意味「日本の竜蛇譚」そのものが(モチーフの比較などによって)竜蛇が移り渡って行った軌跡を辿るものだとも言える。これからも膨大な「わたり」を見ていくことになるだろう。
memo
竜神のわたり 2012.01.08