縄ヶ池の竜女

門部:日本の竜蛇:中部:2012.02.09

場所:富山県南砺市蓑谷
収録されているシリーズ:
『日本の伝説24 富山の伝説』(角川書店):「繩が池」
タグ:俵藤太/蛇女房譚


伝説の場所
ロード:Googleマップ

俵藤太(藤原秀郷)と竜蛇の繋がりというのも実に深い。瀬田の唐橋の竜女の頼みを聞いて大百足を討ったから、ですむのかというとそうもいかない面がある。無論その伝説は室町時代の御伽草子『俵藤太物語』から広まっていったのが第一なのだが、そこにはもっと古代的な竜蛇を祖とする一族の面影もよぎる。俵藤太と竜蛇の話はその出自から子孫の行く先に伝えた話まで万端並べて見る必要があるだろう。

霧の繩ヶ池
霧の繩ヶ池
リファレンス:自然人.net画像使用

城端町でもっとも名を知られている伝説地は、蓑谷の繩が池である。炭酸泉を湧かす林道温泉から蛇行した道を登って行く。水芭蕉の自生地として特別天然記念物地区に指定されており、昭和四十四年五月に、天皇陛下が皇后陛下とともにご来訪された。
平安朝の昔、鎮守府将軍藤原秀郷(俵藤太ともよばれた)が、近江の琵琶湖の主の竜に頼まれて、三上山の大百足を退治し、お礼にもらった竜の子(女)をこの谷に放して、田畑の水源地を作ったといわれる。大正のころまで、日照りがつづいて水不足のときは、この池に雨乞いをした。
水底は深く、竜宮城があるという。昔、この池のほとりで草刈りをしていた男が、草刈鎌を水中に落としたので、探しに潜ったところ、池の主の竜女を見た。絶対に他言しないようにとの口止め約束をして、大財産家になった。しかし、あるとき思わず、竜女実見を口走ったために血を吐いて死んだという話も語り伝えられている。

角川書店『日本の伝説24 富山の伝説』より引用

繩ヶ池姫神社(伝説の竜の子を祀る)
繩ヶ池姫神社(伝説の竜の子を祀る)
レンタル:Panoramio画像使用

俵藤太にはこういう伝説が出て来るのだ。「出流原の竜神」の話の方で、弁天社の勧請が俵藤太による、という点を指摘し、一見伝説に関係ない藤太をキーワードに入れておいたのも、同根の話があったのじゃないかと思う故である。先の縄ヶ池伝説のバリエーションの中には、近江の竜女が百足退治を依頼して来て、とパラレルに、近江の「翁」が依頼して来て、というものがある。そして、お礼に縄が渡され、その縄を張り巡らせた範囲が池になった(ので縄ヶ池)という池の由来が語られる。出流原にかなり近い。

そして、この縄ヶ池の近くに井口という村があり、そこはなんと俵藤太の出生伝説を伝えているのだ。この話、まことに興味深い。

昔、井口村に大きな池があり、そこから市平という若者のもとに通う美しい女がいた。独り住まいが淋しいのでおいてくれと市平にいう。二人は夫婦となり、やがて女のお腹が大きくなった。しかし、女はここで「実は自分は池の主の龍女です」と明かす。
そして、人間の子どもを育てることはできないからと市平に生まれた子を託し、池に戻ってしまった。生まれた子は藤太と名づけられ、蛇の子だと言われながらも元気に育った。藤太が七つ八つの頃は、母に会いたくてよく池の淵へ遊びに行っていた。
ある時池の中から大蛇が現われ、藤太に「立派な人になっておくれ」とはげました。すると藤太は「いつも母さんと一緒にいたいから小さくなってぼくのお腹の中に入って守ってくだされ」と言った。竜蛇は小さくなり、藤太はそれを呑みこんだ。そこで村を蛇喰というようになった。
その後藤太は武士となり、大へん名高くなり、天子さまに召し寄せられて藤原秀郷という名をたまわり……(以下俵藤太伝説)/(石山直義『とやまの民話 第二集』CAPタウン情報とやま)

webブログ「地域神話の風景とフィールド」より要約

という俵藤太がそもそも蛇女房譚の蛇母の子だという驚くべき話が語られているのである。しかも、母の竜蛇が小さくなって藤太に宿るというとんでもない内容を含んでいる。

私は蛇女房譚にまま見える「子を育てる目玉」とは母から英雄となる子へと伝えられる神威の継承だと考えているが、この俵藤太の話では大変ストレートにそのモチーフが表現されていると言えるだろう。

先の話を紹介されている「地域神話の風景とフィールド」の佐々木高弘氏によると、藤原北家魚名流という伝を同じくする藤原利仁の三男が井口氏となり井口村を開いたのだとされ、このことによりこの伝承が生まれたのだろうとされる

「井口村の藤原秀郷誕生譚」
 (webブログ「地域神話の風景とフィールド」)

思えばあって当然の話という感じではある。いずれにしても竜蛇の子藤太が竜蛇を助け竜の子を持ち帰っているのだ。東西を大きく跨いで行く俵藤太伝説を追うにあたっては、この「一周している」縄ヶ池周辺の話を常に意識していないといけないだろう。

memo

縄ヶ池の竜女 2012.02.09

中部地方: