蛇の冠

北朝鮮:咸鏡北道

咸鏡北道のある田舎に貧乏だが正直者で知れた農家の夫婦がいた。ある日、夫が田に出て働いているので、妻が心づくしのご馳走をこしらえて届けに行った。その途中にはどんな干ばつにも涸れない清水があり、妻はそこに立ち寄って水を汲んだ。すると水の彼方から一匹の小蛇がチョロチョロと向かってきて、足下に這い寄った。妻はその蛇の頭に何か光るものがあるのに気がついた。そして、蛇はまた水を渡って草むらに消えたが、妻の足下には、真珠で飾ったような美しい小さな冠が落ちていた。

妻は冠を持って夫の所へ行き見せ、夫婦はこれは大切にしておこうと、宝物として丁寧にしまっておいた。それより、この家は近隣に並ぶもののない長者となった。今はこの夫婦の孫の代で、その冠も残っているという。

崔仁鶴『朝鮮伝説集』(日本放送出版協会)より要約


家に福をもたらす蛇のこと。済州島なんかでは七星(チルソン)といって、蛇の神を富をもたらすものとしてよく祀り、娘について(婚姻の際など)移動するとか面白いものだった。概ねこのあたりの蛇信仰は中国の江南地方からのものだろうとされるのだけれど、北の方にも同じような信仰はある。ロートリンゲン辺りで語られてもおかしくないような話で(幸福が個人ではなく家にもたらされるところはアジアだが)、「冠」が蛇の宝物となるあたり、ツングース系の話なのか、とも思われる。場所は北朝鮮の北東部の方だ。

冠というのは蛇石などの系統とは違って、聖痕に近いものがあると思っているが(頭に冠状の聖痕をもつヌシなどの話がある)、あるいは「北方系」と言える事例かもしれない。もっとも、済州島の富をもたらす蛇も耳があるから富の発生に聡い、などというので同じようなところもあるが。ともかく、こういう蛇が家を栄えさせるという話は韓国朝鮮にもたくさんある。むしろ、屋敷神として蛇を祀るというのは今や日本より色濃いかもしれない。以下などはより一層そう思わせるところがある話だ。

福蛇
北朝鮮:平安北道煕川郡邑内面:藁束に潜んでいた蛇を福蛇に違いないと祀ったところ、家は栄え、その子孫も巨富となった。