九頭竜講

埼玉県坂戸市島田

昔、越辺川は、一に荒川、二に越辺川といわれる程の荒れる川だった。ある年の夏、大雨で越辺川が氾濫し、島田の堤も切れそうになった。その時、どこから現れたのか、九つの頭を振り立てた一頭の竜が、濁り水の中を下って行った。人々は立ちすくんで目を見張るばかりだった。

そして小半刻も過ぎるた頃、急に越辺川の水位が下がりはじめた。夕方になり、川下の村の土手が切れたから上手の水位が下がったのだと知った人々は、さっきの竜は神様が姿を変えてお助け下すったに違いないと深く感謝した。

これが七月二十五日の事だったので島田の下宿では今でも毎年この日には、どこの家でも一人はきっと出て九頭竜講を盛大に営むようになっている。

『坂戸市史 民俗史料編 I 』より要約


川下の土手を切られた村とは小沼のことであるといい、これは別の面を持つ伝説で、そちらでは島田と赤尾のお諏訪さまが竜神となって小沼の堤を切りに飛んで行く、という話になっている。

島田のお諏訪さま
埼玉県坂戸市島田:越辺川が溢れそうになると島田と赤尾のお諏訪さまが竜神となり、下流の小沼の堤を切りに飛んで行った。

これが九頭竜講の枠では九頭竜さまが越辺川を下って行った、と語られているわけだ。現在、九頭竜大神は島田の鎮守・天神社の摂社として祀られており、「島田の神獅子」とも呼ばれているという。

また、お諏訪さまの伝の方では島田と赤尾のお諏訪さまを夫婦であるというが、九頭竜さまの方でも島田の「九頭竜神社の雌雄の竜神は海原と化した耕地を守るため」などと語られる。更に上手の越辺川に流入する高麗川河畔の蛇口神も雌雄の御神像があるとされるが、土地の定型なのかもしれない。

蛇口神
埼玉県坂戸市戸口:名主の作男が草刈りに行って大蛇に呑まれた。繰り返さぬよう、大蛇を蛇口神と祀った。