水子村の由来

埼玉県戸田市新曽

昔、弘法大師が修行に来た。托鉢をしていると、ある娘が大師を見ただけで惚れ、懐妊してしまった。三年経って再び大師が訪れると、娘の親が娘に手を出したと大変怒っていた。大師は自分はそのようなことはしたことがないといい、議論になった。

埒があかないので、生れた子を盥の水に入れ、大師が金剛杖で四、五回ぐるぐる回してみると、その子の形がなくなってしまった。こうして弘法大師の子ではないことが分かった。それから、その村は水子村と呼ばれるようになったという。

『戸田市史 民俗編』より要約


水子村は実在した。というより、現在でも同地は大字水子(富士見市水子)である。この伝説の採取された戸田市新曽からは荒川の対岸という位置関係になる。

ともあれ、これは竜蛇伝説という訳ではなく、その片鱗というのも特にない。しかし、非常に「引っかかって」いた話。

そして、この度(?)同じような筋の話で、竜蛇譚に展開する伝説を山形の方に見つけた。水子村の話でいえば、生れた子を消されてしまった母が大蛇と化す、というような筋になる。

沼がらの伝説
山形県西村山郡西川町:虚無僧の飲みさしを飲んだ娘が懐妊してしまう。僧が水を吹きつけると子は水に戻り、母は悲歎の余り蛇と化した。

やはり、どうもこの話型にはどこかしら竜蛇譚と接続するものだという感覚があるようだ。今の所流れのどのモチーフがどうとはいえないが、引き続き類似する話を探したい。