八重蒔沢の蛇石

長野県佐久市


昔、一人の武士が内山の八重蒔沢を通ると大蛇がとぐろを巻いていた。武士がこれを斬ると、頭は平賀へ尾は釜の沢へ飛び、胴はその場へ残った。そして皆石になってしまった。今も八重蒔沢と釜の沢にあって蛇石といっている。

明治の初年までこの石のお祭をしていたそうだ。八重まきという名は、蛇が八重に巻いていたことからそういう。平賀村の常和にあるのも、このときの石だという。

『限定復刻版 佐久口碑伝説集 南佐久篇』
(佐久教育会)より要約

追記

実際の位置、現在石があるのかどうかなどは不明。常和の山田神社は蛇石を祀り、またその伝説があるが(「山田神社の蛇石さん」)、この八重蒔沢の大蛇の話も同系異話なのだと思われる。分かれた石の部位、飛んだ先などが微妙に異なる。

興味深いのは、山田神社が素盞鳴尊の八岐大蛇退治に遡ってその由来を語るのに対し、こちらでは比較的おさまった時間感覚での大蛇退治を語っているところだろう。さすがに八岐大蛇はいつか付会された話であろうから、もとはこのくらいのものだったのかもしれない。