上り竜下り竜

原文:神奈川県相模原市緑区


むかし、宿部落の山寄りに通称おみたけ(御嶽社)と呼ぶ小さな祠がありました。不思議なことにこの土地では北方の雷岩から出る雷は大きいとむかしから言い伝えになっておりました。

その日も俄に一天かき雲り轟然たる雷鳴となりました。案の状、北から出た雷雲は村落に向ってぐんぐんと層雲が広がり篠つく雨となり、またたく間に暗黒の世界となりました。その時です。雷雲に乗って天を衝くように高い大杉を伝って雲の中になにか白いものが祠めがけて下ったと言うのです。その白いものとはまぎれもなく一匹の大きな竜だったのです。

天地も裂けんばかりの雷鳴も時を経るにしたがって、次第に納まりかけたころ再び白い姿をした竜が天空に向って昇っていったと言うのです。それが上り竜、下り竜の本態だったということです。

今ではこのおみたけに昔の祠はありませんが祠の建っていた跡や、近年まで大杉の朽ちた株の根が掘出され、縄文式土器の破片、古銭等が見つかっております。

『津久井の昔話 第三集』
(津久井福祉事務所)より

追記