劔社

神奈川県横浜市青葉区


昔、陸奥の炭売りが鎌倉の鍛冶のところへ炭を売りに来ていた。長い付き合いなので、鍛冶が感謝して炭売りに一口の刀を贈った。炭売りは喜んでこれを携え国に帰ろうとしたが、泉谷で一休みして泉の水を飲むと、酒を飲んだようで、倒れ伏してしまった。

そして倒れた炭売りをそばの松の木の上から大蛇が呑もうとしたのだが、鍛冶にもらった刀が自ら抜け出て大蛇を斬殺した。こうして助かった炭売りが刀を劔明神祀ったのであるという。

『新編武蔵風土記稿』より要約

追記

荏田(えだ)町の鎮守社として劔神社は今も立派にある。素盞嗚尊が祭神とあてられているが、この伝説は神社境内にも掲示されている。『都筑の民俗』によると、神職の家に一尺ほどの刀が保管されているそうな。

自ら鞘走って大蛇を斬るという名刀の話だが、その一歩手前にも目を引くところがある。泉の水が酒のようになっている、ということろだ。現在その泉というのがあるのかは不明だが。

湧水が酒となるという話は色々にあるが、ごくまれに蛇が関与する場合がある(「糠塚山の蛇娘」)。この話もその希少な事例のひとつになるといえるだろう。

一方、大蛇が現れる際に眠気を催すというのは、忠義な犬の筋などでおなじみであり(「変った定紋」など)、劔社の由来は犬が刀に代わった話という見方もできなくもない。