朝茶の由来

埼玉県坂戸市


仲の良い熊さんと杢さんが魚をとりに長瀞へ行った。そして網をおろしていると、水かさが増して、濁流が流れ、あちこちから青い火が燃えるのだった。長瀞にはしばしば岩殿山の池の大蛇が島田の九頭竜の池を通って遊びに来るのだ。

方々から遊びにきた大蛇は、網があると自由にならないので、青い火を燃やして帰れというのだ。そのうちに、一匹の大蛇が大きな口をあけて熊さん杢さんに向かってきた。

その時、とっさに熊さんが、俺たちはここに来る前にジャをのんだよな、といった。これに杢さんも美味かったと合わせたので、大蛇は蛇をのむとは、と恐れて逃げて行った。熊さんは茶を飲んできたのを蛇(ジャ)を飲んできたといったのだ。これから朝茶を飲むと難を免れるというようになった。

『坂戸の民話と伝説』坂戸町高令者学級
(坂戸市教育委員会)より要約

追記

シチュエーションは色々だが、このように茶を飲んだことを蛇を呑んだと思わせ、大蛇に襲われそうになる難を免れる、という話が各地で語られる。殊に、埼玉の秩父周辺には多いだろうか。

朝茶で難を逃れるという話自体は、ゆっくり朝茶を飲んでいたために難の降りかかるタイミングを免れた、というようなものとしても語られ、蛇の話に限るというものでもない。