水穴権現の大蛇

栃木県那須塩原市


沼野田和と東小屋の境に水穴という地名があり、明治中頃まで水穴権現の社があった。金田村のほうの灌漑用水の水源として清水が湧いており、社頭には数千年の杉の大木があった。しかしこの巨木も年経て樹心は大朽洞となり、いつからか大蛇の住処となっていた。

大蛇は近隣を荒らし、人畜の害も少なくないので、皆難儀していたが、ある年の大雷雨の際、この老神杉に落雷し、大蛇は感電して斃れてしまった。その牙は、今も東小屋の旧家の宝物としてあるという。その後、老杉は乞食の失火により焼け、間もなく伐採されてしまった。

『黒磯市誌』黒磯市誌編さん委員会
(黒磯市)より要約

追記

那須塩原駅のすぐ南のほうの話となるが、水穴が現在どうなっているかは不明。水穴権現は東那須野神社に合祀されているという。この権現の性質がわからないので、大蛇との関係、雷との関係も考えようがないのだが(水神格ではあるだろうが)、気になるのは大蛇の牙が保存されている、という点。

ここより東北に行くと、ホウリョウ神という竜蛇であり水神であり雷とも親戚関係であるともいう神格が信仰されていた痕跡がまま見えるのだが、水穴権現の話にはそれらがすべて揃っている。ホウリョウを祀ったという土地には、ままその土地から出た石鏃などを竜蛇の牙として蔵する事例が見られるのだ。もし、そういったものの一端であったとしたら、雷に倒された大蛇、という筋を見直して捉える必要があるかもしれない。