山菅の蛇橋

栃木県日光市


神護景雲元年(七六七)四月、勝道上人は弟子らを連れ、二荒山の頂上をきわめようと、大谷川に差し掛かった。ところが川には橋がなく、切り立った絶壁の下で激流が岩を噛んでいた。勝道上人は神仏の加護を祈るよりないと、護摩を焚いて祈願した。

すると、青と黒の法衣をまとい、髑髏を首にかけた化神が現れ、深沙大王であると名乗り、難儀を救おうといった。そして深沙大王は青蛇・赤蛇を投げ、蛇は絡み合って対岸から延びて蛇橋となった。これに山菅を打ち掛け不気味な蛇紋を隠したので、この神橋を山菅の橋といい、今に伝えている。

『日本の伝説44 栃木の伝説』
武田静澄・他(角川書店)より要約

追記

音に聞こえた日光の神橋の伝説。そもそも竜蛇神の側面を持つ二荒山の神と深沙大王の蛇の関係や勝道上人と竜蛇の係わりなど、いろいろな話とつなげてみるべきものではあるが、今はそこはさて置き、蛇の橋の事例として参照されたい。

この橋の伝説は蛇の橋の話としては最も知られたものと思う。蛇が人を助け渡す話の一面の典型でもあり、すなわち高僧や武人などを守護する神仏・眷属の救いがその理由として語れるものだ(「鰻橋」なども参照)。