竜の尾塚

栃木県鹿沼市


昔、北半田の辺りが大旱魃にあい、田が割れ畑が乾く中、天を掩って水に渇した大竜神が現れた。竜は小倉川の瀬に降り立ち、人々は恐ろしさに右往左往して神仏に加護を求めた。

その時、小倉川の淵から金色燦然たる竜神が現れ出で、二竜の間に激しい争闘が繰り広げられた。大格闘はしばらく続いたが、やがて天から現れた竜が小倉川の竜に打ち倒され、その巨体が二つに分かれて地に落ちた。

小倉川の竜神は悠々と淵に帰り、死んだ竜の頭は対岸の磧に、尾は現在の丘のところに落ちて冷たくなったという。その後、北半田では尾の塚を改めて築き、竜神の霊を祀ることになったのだそうな。

『下野伝説集 追分の宿』小林友雄
(栃の葉書房)より要約

追記

『粟野町誌』に同じところの「竜の頭と竜の尾塚」の話として紹介されており、非常に難解な筋が語られている。干ばつに残った水を竜が飲んでしまうかと思えば、大水で溢れそうになる川の水を竜が飲んだりと、真逆の内容があるものだ。

この『下野伝説集 追分の宿』は、もと昭和七年に刊行されたものの復刻であり、あるいはこちらのほうが元の話の形なのかもしれない。そうだとすると、竜と竜の闘いの話だった、ということになる。

いみじくも編者は「面白い神戦物語が伝えられている」と書いているが、なるほどそのほうがまだ考えようがあるように思える。また、『町誌』に見る話などから考え、元から別伝で矢で射たという要素もあったのか、と見てみれば、土地柄もあり、合力した人間のいた話であったのかもしれない、とも思える。