五郎兵衛淵

秋田県横手市


昔、八柏に孫兵衛夫婦があったが、子がなく淋しかった。そこに、お地蔵さんに参ると良いものが授かると夢に見、毎日お参りした。するとある日小さな蛇が現れ、孫兵衛はこれが授かりものかと連れ帰り、五郎兵衛と名付けてかわいがった。

ところが、年月が経つうちに五郎兵衛は大きくなりすぎ、近所から捨ててもらいたいといわれるようになってしまった。孫兵衛夫婦はやむなく、ご馳走を五郎兵衛に与え、山へと捨てた。

そのうち梅雨になったが、あば(おかみさん)は淋しさから病気になってしまった。孫兵衛は薬を得ようと大雨の中横手へ向かったが、帰ってくると大戸川の橋が流されており、家に戻れなくなってしまった。

その時、黒い大木が流れてきて橋となった。孫兵衛が急ぎ渡ると、その大木は蛇の五郎兵衛だった。孫兵衛はなんども五郎兵衛に礼をいい、五郎兵衛は大きく育ててもらったお礼に、この淵に住んで村を守ろう、といって消えた。

『新版 日本の民話10 秋田の民話』
瀬川拓男・他(未來社)より要約

追記

現在の横手市大雄八柏の話。登場人物の名に異同があり、『通観』『横手盆地のむかしっこ』また「まんが日本昔ばなし」でも、お爺さんの名が五郎兵衛となっていた。今のところはその全文が参照できた松谷みよ子版の上の話を引いておく。淵の名としては、蛇の名が五郎兵衛であるのが自然と思える。

また結末にも異同があり、「まんが日本昔ばなし」では、蛇はお爺さんを渡した後に幾重にも折れて流されてしまう。『横手盆地のむかしっこ』では、この後にお爺さんの家が傾いた(福の蛇が去った)ことが語られる。

主筋としては蛇息子譚なのであり、その報恩譚といえるだろう。蛇息子は多く自らを犠牲にして人の親に福をもたらすのであり、五郎兵衛(蛇)はやはり流されてしまう幕が妥当なのかもしれない。ともあれ、そのあたり蛇息子の話の一端という点は今はさて置く。

五郎兵衛(蛇)は橋になって孫兵衛を渡しているのだが、ここを参照するために今はあげた。蛇が橋となる話は多いが、「人のため」にそうなる話には、理由が必要になる。五郎兵衛淵の話は報恩という理由が語られている事例となる。

他の事例は江戸小菅の「橋になった大蛇」から。