クロンドンドン・シン・ソンビ:前半

韓国・忠清南道青陽郡

大昔、子のない夫婦がいたが、妻が青大将でもいいから子がほしいと願って、本当に青大将の子を産んだ。人目をはばかって甕に入れ、蓋をかぶせていたが、子が生まれたと噂を聞いた隣の長者の三人娘が来て、見せてくれ、といった。母は仕方なく甕の中にいると教え、三人は順に中を見たが、長女と次女は気持ち悪いとバタンと蓋を閉め、三女だけが「クロンドンドン・シン・ソンビを産んだのね」といって静かに蓋を閉めた。

何年か過ぎ、青大将は母に、嫁取りがしたい、と言った。しかも長者の娘を嫁にしたいという蛇の息子に、母はだれが蛇の嫁になろうというのか、とたしなめた。ところが蛇の息子は長者に頼まないなら、自分は右手に剣、左手に火を持ってお母さんの腹の中に戻ります、と言ってきかなかった。

仕方なく母は勇気を振り絞って長者家に行き、様子がおかしい母の話を聞いてくれた長者に蛇の息子の話を告げた。すると長者は意外にも話に乗り、娘を順に呼んで、どうするか尋ねた。長女と次女は、青大将の嫁になれとは気でも違ったのかと飛び上がって断ったが、三女は親の考えに従うだけです、といって、蛇の嫁となることを承諾した。

結婚式では皆が三女を嘲笑ったが、娘は構わず式に出た。そして初夜となったが、青大将の新郎はその恐ろしい皮を脱ぎ、この世ないないほどの美男子となったのだった。これを習わしで覗いていた長女と次女は息をのみ、そうとわかっていれば自分が嫁となったのに、と悔しがった。

一方新郎は、脱いだ皮を新婦に渡し、これは絶対人に見せてはいけない、火で燃してもいけない、この約束を破ったら、二度と会えなくなる、と言っていた。姉たちはこれを聞いて、意地の悪い目をしてそこを離れた。そして後日、妹の家に遊びに行くと、無理を言って妹がチョゴリの結び紐に掛けてある袋を取り上げ、火で燃やしてしまった。その煙は天高く上り、臭いは遠くへ旅に出ていた新郎にまで届き、そして新郎は帰らなかった。

崔仁鶴・厳鎔姫『韓国昔話集成2』
(悠書館)より要約

東シナ海文化圏から東南アジアのほうにあっては、蛇息子・蛇聟というのはこのように、その皮を脱いで人の美丈夫となるのがもっぱらであり、その後は妬んだ姉が妹を殺して自分が妻におさまるが……というような筋となる。韓国の話は難題嫁となっていくあたりは、東洋のプシューケーというところだ。

多く語られる類話の中に蛇の夫が結婚のとき「私は天上の仙官であったが、あなたと縁があるので天の神の命により青龍のかたちとなって降りてきたのです」と語るものがあり(孫晋泰『朝鮮の民話』岩崎書店)、神婚譚の側面ということでは重要となるだろう。

ちなみに、クロンドンドン・シン・ソンビ(구렁덩덩 새 산비)というタイトルだが、シン・ソンビ(새 산비)が新士・素敵な新郎というほどの意なので、クロンドンドン(구렁덩덩)が蛇を指すということになるのだろうが、語意としてはよくわからない。幼児語のようなものだろうか。