クロンドンドン・シン・ソンビ

原文

むかし、とてもむかし、あるところに年をとった夫婦がすんでいた。この夫婦は子どもが一人もいなかったので、いつも淋しく住んでいた。年をとっていたので子どもを持つことができなかったが、心の中ではいつも子どもが欲しいと願っていた。妻は「私が子どもを産めなくて、本当にすみません」と言いながら、心の中で、「青大将でもいいから子どもを一人産みたい」と切実に願っていた。

すると妻のこの願いがかない、本当に子どもをさずかり、月満ちて出産した。ところが、産んでみると、それは人間ではなくて、青大将だった。母親は人に見られるのをはばかって、青大将を甕の中に入れて蓋をかぶせておいた。

ある日、隣に住んでいる長者の三人娘が噂を聞きつけて、子どもを見に来た。

「おばさん、おばさん。子どもを産んだと聞きましたが、どんなに可愛いいか、ちょっと見せて下さい」

母親ははずかしかったが、どうしようもなく「その甕の中にるから行ってみなさい」と言った。

長者の長女が蓋を開けて見ると、「いやねえ、おばさん。気持ち悪い青大将を産んだのね」と言って、蓋をばたんと閉めて帰った。

次女も同じようにして帰った。

しかし長者の三番目の娘は蓋を開けて見て、「クロンドンドン・シン・ソンビを産んだのね」と蓋を静かに閉めて帰った。

その後、何年も過ぎた。青大将は母親に「お母さん。私も嫁取りをしますので、新婦を選んで下さい」と言った。息子の言葉に、お母さんは、あっけにとられて「青大将息子の嫁に来るような娘が、どこの世界にいるか」と思って、目の前が暗くなった。

しかし青大将の息子は、母親の心配をよそに、しきりに頼んだ。

「どうして、じっとしているのですか。私にだって、嫁に来たいという娘はいますよ」

「おまえも本当に情ないね。自分の立場を少しは考えなさい」

「お母さん、私がどうしたと言うんです。とにかく長者の三番目の娘と結婚するから、行って気持ちを聞いてきてください」

この言葉を聞いて、母親は開いた口が塞がらなかった。やっと我に返った母親は、「お前は気でも違ったのかい。あの長者が、どんな家柄だと思って、そんなことを言うんだい。二度とそんなことを口にするんじゃないよ」とたしなめた。

しかし青大将息子はかたくなに、自分の立場もかえりみずに言い張った。

「お母さん、私の話を聞いてくれなければ、右手に刀を持って、左手に火を持って、お母さんの腹の中にもどります」と言って、駄々をこねた。

この言葉を聞いた母親は、胸がドキドキした。

それで仕方なく長者の家を訪ねたが、門の前に立つと、中に入る勇気がなかった。どうしようかと迷っていると、ちょうど長者が帰って来て、母親の姿を見つけた。

「何か御用ですか、どうして門の外を行ったり来たりしているのですか」

「はい、はい」と母親はお辞儀ばかりをしていたが、勇気を出して、主人について家の中に入った。

「さあ、私の家に来た目的を言って下さい」と主人が言うと、母親は迷ったあげく口を開いた。

「あの、私には青大将の息子がいます。しかしこの子が、気がおかしくなったのか、嫁をもらうと言い出したのです。それも、お宅の娘さんを嫁にもらうと言っているのです。とんでもないことだと思って聞かないふりをしていましたら、その子が、言うとおりにしなければ、右手に刀を持って、左手に火を持って、私のお腹に戻ると言うのです」

「うーむ」と主人は静かに聞いていたが、「それでは、娘に聞いてみましょう」と、意外にも話にのってくれた。畏れ多くてどうしようもなかった母親は、やっと少し安心することができた。

長者は長女を呼んだ。

「あの下の家の青大将が、私たちの家に聟に来ようとしている。お前はどう思うか」

父親の言葉に、長女は、

「何ですって。お父さんも私も、気が狂ったのでしょうか。青大将のところにお嫁に行くなんて、とんでもない」と飛び上がった。

次女も長女と同じ答えだった。

しかし三女は父親の言葉を聞いて、「結婚というのは人生で一番大切なことですから、どうして私が、良いとか悪いとか言うことができるのでしょう。私はただ親の考えに従うだけです」と答えた。

それで長者の三女は、青大将と結婚することになった。そして良い日を選んで、結婚式が挙げられた。

結婚式の当日、二人の姉をはじめ、村の人たちがみんな集って、長者の三女をあざ笑ったが、娘はかまわず式に出た。

結婚式が終わって初夜になった。青大将の新郎は新婦といっしょに新婚の部屋に座り、時がたつのを待っていた。ようやく夜が更けて真夜中になると、青大将の新郎はその恐ろしい皮を脱ぎはじめた。驚いたことには、青大将の皮を脱いだ新郎の姿は、この世にないほどの美男子だった。

その時、ちょうど長者の長女と次女が初夜のようすを見ようと、昔ながらの風習で障子に穴をあけ、部屋の中を覗いた。そして二人は、あっと息をのんだ。青大将はどこかへ消えて、世にもまれな美男子が座っていた。

「わかっていたら私がお嫁になっていたのに」と二人はとても悔しがった。そしてまた二人は部屋の中を覗いた。ちょうど新郎が青大将の抜け殻を新婦に渡しながら、

「これは絶対に人に見せてはいけない。そして火で燃やしてもいけない。もし約束を破ったら、あなたとは二度と会えないことになる」と言い含めた。

このことを聞いた二人の姉は、意地の悪い目つきをしてそこを離れた。

夜が明けると、新郎は遠くへ旅に出た。二人の姉は妹の家によく遊びに来た。姉たちは妹に、チョゴリの結び紐に掛けてある小さな袋を見つけて、見せてくれるようにたびたびねだった。その袋の中には、新郎の抜け殻が入っていた。

最初はだめだと断ったが、「姉さんたちにも見せられないものがあるの」と言うので、妹は仕方なく見せてしまった。姉たちはそれを手に入れると、すぐに火で燃やした。その煙は天高くまで昇って、その臭いは遠く新郎まで届いた。

その後、新婦は新郎を待って待ちこがれたが、一日、二日、一年、二年が過ぎても帰ってこなかった。新婦は、自分が約束を破ったから新郎が帰ってこられなくなったと思って、激しく悲しく泣いた。

そしてある日、新婦は新郎を捜そうと、旅に出る決心をした。新郎をたずねて旅に出た新婦は、険しい道を歩いて歩いて、疲れはてた。

それでもどんどん歩いていくと、鍬で耕している老人がいた。そこで新婦は、「私の夫のクロンドンドン・シン・ソンビを見ませんでしたか」と老人に聞いた。

すると老人は「この畑を耕してくれたら教えてやろう」と答えた。新婦はうれしさのあまり、すぐに一生懸命畑を耕しはじめた。そしてやっと畑を全部耕し終えたら、老人は、「そこの峠を越えたら洗濯をしている女がいるから、そこに行って聞いてごらん」と教えてくれた。

新婦はまた道をいそいだ。老人が教えたとおり、峠を越えると、そこに年をとったお婆さんが、川のほとりで洗濯をしていた。

今度も新婦は、「お婆さん。私の夫のクロンドンドンシン・ソンビを見ませんでしたか」と聞いた。

お婆さんは新婦の顔をちらっと横目で見て、「この着物を洗って、白いのは黒く、黒いのは白くしておくれ、そうしたら教えるよ」と言った。新婦は一生懸命に働いて、白いのは黒く、黒いのは白くした。

するとお婆さんは新婦に、「その峠を越えたら、わかるよ」と教えてくれた。

新婦はまた元気を出して道を急いだ。そして死力をつくして峠を越えた。そこには髭を長く伸ばしたお爺さんが、子犬を抱いていた。

新婦は老人に向かって、「お爺さん、クロンドンドン・シン・ソンビが通りませんでしたか」と聞くと、老人は抱いていた子犬を下ろして、「そりゃ難しいことではないよ。この子犬が歩くとおりに、後をついて行けばわかるよ」と言った。

新婦はお礼を言って、子犬の後について行った。

しばらく行くと、川のほとりについた。そこには白い盥が置いてあった。子犬はすぐ盥に乗った。新婦も子犬について盥に乗った。すると子犬と新婦を乗せた盥は、水の上をどんどん流れていったが、いつの間にか水の中に沈みはじめた。

新婦は目を閉じていたが、水中にしばらく沈んだかと思うと、いつの間にか水の上に浮かび上がったような気がした。そこで目を開けてみると、目の前には今まで見たこともない世界が現れた。

そこには宮殿のように大きな瓦屋根の家があった。新婦はその家の中に入って、食べ物を下さいと言った。すると、白米を一桝くれた。新婦が、わざと穴の開いた袋で米を受けると米は、穴から地面に流れ落ちた。新婦は、かがんで米を一粒一粒拾って袋に入れた。すると時間が過ぎて、あたりはだんだん夕闇が迫ってきた。そこで新婦はその家の人に、今晩一晩泊めて下さいと頼んだ。その家の人は、最初は泊まらせる部屋がないと断ったが、新婦が馬小屋でもいいので泊めて下さいと懇願するので、やっと泊めてくれた。

夜が更けると、堂々たる風采のソンビが庭の中に入ってきた。新婦がよく見ると、その人はほかでもない、自分の新郎だった。新婦が「ヨボ(あなた)」と声をかけると、ソンビも急に現われた新婦を見て、「どうやってここまで来たのだ」とおどろいた。

新婦は涙を流しながら、今までの苦労をしてきた新郎捜しのすべてを話した。話を聞いたクロンドンドン・シン・ソンビの新郎は、新婦の痛々しい姿をあわれに思ったが「私にはすでに二人の妻がいる」と言い、自分の抜け殻をよくしまっておきなさいという約束を破ってしまったことを叱った。しかしそれはもう過ぎ去ったことで、新郎はどうやったらまた新婦をまた迎えることができるかと、夜を徹して考えた。

夜が明けると新郎は、二人の女を呼んだ。そして新婦を含めて三人の女を前にして、「これから私が問題を出す。それに答えた女を私の本当の妻にする」と言った。

新郎が出した問題は、三尺あまりのかかとの高い木靴を履いて、三十里離れた山に行き、銀の甕に薬水をいっぱい汲んでくることだった。二人の女は勢いよく走っていき、水を汲んで、一目散に駆けてきた。銀の甕からは水がこぼれて、目的地についた時には、薬水は下の方に少ししか残っていなかった。しかし新婦は初めから気をつけてゆっくり帰ったので、甕の中には水がいっぱい入っていた。

二つ目の問題は、山奥に入って、恐ろしい虎の眉毛を三本抜いてくるというものだった。新婦は山奥深く入った。山奥につくと、一軒の家があった。新婦はとても疲れていたので、その家で休ませてもらおうと戸を叩いた。すると一人の老婆が現われて、親切に迎えてくれた。新婦は今までの自分の身の上をこの老婆に話した。老婆は新婦の話を全部聞いて、「それは大変なことだっったね。しかし心配はないさ。私の子どもたちが帰ったら、虎の眉毛なんて問題ないよ。おお、今ちょうど息子たちが帰ってきたところだ。しばらく押入れに入っていなさい」と言った。

新婦は老婆の言ったとおりに押入れに入って、息を殺して待っていた。

しばらくすると馬の足音が騒がしく聞こえてきて、「お母さん、ただいま」と大きな虎が三頭現れた。

虎たちは「あれ、おかしいな。うちの中に人の臭いがするよ。間違いなく人の臭いだよ」と一頭が鼻をくんくんさせて臭いをかいだ。

すると老婆は平然として、「何の臭いだね。臭いといったら、お前たちが食べてきた人間の臭いだけだよ」と言った。そして「よけいなことを言わずに、早く寝なさい」と言った。

虎たちはすぐに寝てしまった。老婆は大きい奴から順番に眉毛を一本ずつ抜いた。そしてその眉毛を新婦に渡して、すぐに帰るように言った。

無事に帰ってきた新婦は、持ってきた虎の三本の眉毛を新郎に渡した。しかし虎の眉毛を手に入れられなかった二人の女は、猫の眉毛を抜いて、虎の眉毛だと嘘をついて新郎に渡した。

最後の問題は、寒い冬に山の苺を採ってくるようにというものだった。

新婦は山の奥に入った。山の中はとても寒くて、体はカチカチに凍りついて、今にも死にそうだった。しかし急に目の前に一人の白髪の老人が現われて、新婦を洞窟の中へ案内した。洞窟の中は、外とは違う世界だった。春のように暖かい気温で、あちこちに花が咲いていて、苺の畑もあった。新婦は老人が言う通りに、苺をたっぷりと篭に入れ、家に帰った。そして新鮮な苺を新郎に渡した。いっぽう、いっしょに苺を採りにでかけた二人の女は、一日たっても、二日たっても帰ってこなかった。新郎は新婦を許して妻に迎え、幸せに過ごしたということだ。(崔仁鶴 一九八〇B)

崔仁鶴・厳鎔姫『韓国昔話集成2』
(悠書館)より