蟹淵

静岡県賀茂郡西伊豆町

昔、宇久須の柳河原に深い淵があり、小さな川だが、そこだけいつも気味の悪いほど青く澄んだ水がよどんでいた。里の人は普段おそれて近寄らなかったが、ある時どうしたわけか一人のおばあさんが、籠を背負ってこの淵へ来て、洗濯を始めたそうな。

淵の下手に洗濯をするのにちょうどよい二畳ほどの苔むした平らな岩があり、おばあさんはこの上で気持ち良く洗濯をした。ところが、そのうちにこの岩が少しずつ淵の中へ向かって動き出した。おばあさんはあわてて洗濯物をかごに入れ、岸に逃げた。

すると、なんと岩がのっそのっそと歩き始めたのだった。おばあさんが恐ろしさに震えて見ていると、それは岩ではなく、大きなズガニだったのだ。おばあさんは淵から逃げ帰り、それから淵をガニ淵と呼び、女子どもは近付かないようにいわれたそうな。

むかしばなし編集委員『かもむらむかしばなし』
(賀茂村教育委員会)より要約