むかし、宇久須の柳河原というところに、たいそう深い淵があったそうです。あまり大きな川ではないが、ここだけはいつも水が淀んでいて、気味の悪いほど青くすんでいました。里の人たちは、なんとなくおそれをなして、近よることもあまりなかったそうです。
あるとき、里のおばあさんが、どうしたわけか籠を背負って、この淵にせんたくにでかけました。淵の水ぎわに立ったおばあさんは、どこかよい所はないかと、あたりを見まわしました。すると、淵の下てのところに、たたみ二畳ほどもある平らな岩があるのが目にとまりました。せんたくするのには、ちょうどよい所と思い、岩の上にとび移りました。みると岩には水ゴケが、たくさん生えていました。
平たい岩なので、おばあさんは安心して、せんたくをはじめました。おばあさんが、きれいな冷たい水で気持ちよくせんたくを続けていると、どうしたわけか、この岩が少しずつ淵の中へ向かって動きだしたのです。おばあさんは、これはたいへんと、あわててせんたくものを籠に入れ、ようやく岸にあがりました。
おばあさんが岸にあがって、この岩を見ていると、なんと大きな岩がのそっのそっと歩きはじめるではありませんか。あまりのことに、おばあさんはぶるぶるふるえながらみていると、なんと、これは大きなズガニだったのです。おばあさんは、ようやくにして淵からにげかえりました。
それからというもの、里の人たちは、この淵をガニ淵といい、女や子どもたちに近づかないようにいうのでした。