信州高遠大蛇を斬害す

長野県伊那市

保科肥後守殿のころ、蓑輪の大茅原に大蛇が蟠居しているとの話があり、鷹匠井深九郎兵衛に討伐の命が下った。九郎が草むら深く分け入ると、大蛇が眠り込んでおり、その鼾は臼をひくようであったが、難なくその首を打ち落とすことができた。

ところが、首を失った胴が地震のごとき響きをたてて動き回り、切り口よりは白き気が立ち、一天俄かにかき曇り大雷雨となった。九郎もすわ身の大事と急ぎ立ちかえり、小沢の坂を下るが、大蛇の胴は一散に追って来るのだった。

九郎はここに踏みとどまり、刀を持って大蛇の胴を斬り倒したが、自分自身も一度は絶死したという。その後、集まった人々に連れ帰られ、百日ほど病んだが快気した。雨は三日降り続き、信州一国は洪水にて所々損亡したという。(『新著聞集 勇烈篇 第七』)

『伊那市史 現代編』より要約