蛇丸と竪沢川

山梨県韮崎市

昔、武田村石原の〝おおや〟という家に、蛇丸という大刀が伝えられていた。ある年の夏、日照りが続き、竪沢川の水が涸れ、田は渇ききり、稲は枯死寸前になった。その時、おおやの主人は伝家の宝刀蛇丸を河原の砂に突き刺し、西山に向かって一心に雨乞いをした。

すると、一天がかき曇って、たちまちに大雨がやって来た。そして、竪沢川の水が増し、田が生気を取り戻した時、濁流さかまく竪沢川を大蛇が泳いでいた。村人たちが驚いて石を投げつけると、大蛇はたちまち姿を消した。以降、大刀蛇丸はもとあった所に現われたが、刃の中程に刃こぼれができていたという。(『韮崎市民話伝説集』)

『韮崎市誌 下巻』より要約

大刀が大蛇になったという話。化ける場面が直に語られる訳ではないが、大蛇に石を投げたら刀が刃こぼれしたというのだから、そう捉えて間違いあるまい。こういった話は、刀が盗まれそうになるのを自ら防ぐために蛇と化す、という筋でまま語られるが、蛇丸の話は特にそういう筋ではないようだ。