昔、婆さと孫が野良に出かけ、雨に降られて笠と蓑を着、七面様の下の泉近くの納屋で雨宿りをしていた。雨はすぐ止むと婆さがいうので、孫も泉に降る雨を見ながら腹を空かせてまっていたが、そのうち気づいたことがあった。
泉の水面に映る影が、いろいろな形に見えるのだ。笠のように見えたので婆さにも訊くと、婆さもそう見えるという。面白がって婆さが「笠になれ」と囃し立てると、泉から水が吹き上げ笠の形になった。今度は「蓑になれ」と囃すと、吹上げる水が蓑の形になる。
二人で盛んに面白がっていたその時、雷が鳴り、稲妻が光った。そして、水面から竜が頭を持ち上げ、泉の上にある七面大明神のお堂に目を向け、首を振っていた。婆さは、囃子水の守り神じゃ、と竜神に手を合わせた。雨があがると、竜神の化身はどこにも見当たらなかったという。