おてねが島

千葉県鴨川市

いつの頃のことか、江見の海岸に三人姉妹の海女がいた。姉妹は誰より美しく、誰より海女の技に長け、どの姉妹よりも睦まじかった。海岸から五、六町のところには鮹が島と呼ばれる奇形な岩があっり、大鮹の主がいると恐れられた。そこで悲劇が起った。

ある時、長姉のおてねが薪取りに行ったさい、妹二人が海に出ていた。その日二人の前には尽きぬあわびが点々とあり、姉妹は狂喜して追い採っていった。しかし、いつの間にか二人は鮹が島に近付いてしまい、他の海女たちが気付いて叫んだときには遅かった。大波が二人を飲み、帰ることがなかった。

二人が飲まれた時、大きな足が見えたという者もいたが、話を聞いた長姉のおてねは一日中泣き、翌日からは泣きも笑いもしない人になってしまった。その笑顔を消した大鮹を皆は憎んだ。二人の妹が鮹の餌食となって七日目。お手根の家の前に三間もある鮹の足が置かれ、見た人は驚いた。

おてねが妹たちの復讐をしたのだろうと噂したが、表情をなくしたおてねからそれは知れなかった。鮹の足は日々増えていき、ついには七本となった。そして最後の朝。おてねの家の前には八本目の足はなかった。それから幾日たってもおてねが帰ることもなかった。

それから夜になると、鮹が島からは白銀の笛のような美しい声の悲しい唄が聞こえるようになったという。鮹が島は誰言うとなくおてねが島と呼ばれるようになり、「二度といくまいおてねが島に、行けばおてねが足投げる」と海女たちに唄われるようになった。

鴨川市郷土資料館『長狭地方の民話と伝説』より要約

人の欲の戒めというモチーフは大きく後退しているといえるだろう。二人の妹が普段とかけ離れた尽きないあわびの列を追っていくところにそのような雰囲気はあるが、これはむしろ富の発生のバランスが崩れる話に見られる現象に見える。