昔、南無谷の雀島近くに大蛸が棲んでいた。そこは潮が速く恐ろしい深みだったが、ある時磯遊びの好きな百姓が包丁を持って潜り、その大蛸の足を一本切り取って帰ってきた。
その足は一丈もあったので、どんな味かと話題にはなったが、気味が悪いと貰うものはいなかった。ところが、百姓が刺身にすると、今まで食べた事のない美味さで、味をしめた百姓は翌日は酢蛸で、その翌日は醤油煮でと、毎日一本ずつ切り取っては食べ、とうとう七本目の足まで食べてしまった。
大蛸は二本や三本の足を取られてもまた生えてくるので気にしなかったが、ここまで来るとたまらない。怒って百姓が来るのを待ち構え、最後の足で巻きついた。百姓は二度と波の上には上がらなかったという。