えぼとり神様

千葉県市川市

源心寺の左に小さいお宮があり、昔は睡蓮の花が咲くころになると、人々がこの「えぼとり神様」にお参りに来たという。二十一日間お参りに来て、終わりの二十一日の夜、夢を見るのだそうな。

夢では美しい睡蓮の花の中から、一匹の蛇が出てきて、目も開けられない美しい光がさし、体が浮き上がると、その蛇になめられるのだという。そうして朝起きて、なんとなく鏡など見ると、顔や首のえぼが消えているのだそうな。

そんな人が何人もいるという話が伝わり、多くの人がお参りに来る。成田山の神様よりあらたかだといわれて、時季には茶店も出るほどだった。七日、十七日、二十七日にお祭りをする。

市川民話の会『市川の伝承民話』より要約

欠真間の源心寺に「いぼとり不動」という不動さんのお堂があり、その傍らに今もこの「えぼとり神」の小さなお宮がある。中には文字碑らしい石碑があるが、何と刻まれているのかはわからない。

疣とりの効能をうたう神仏霊石などは枚挙にいとまなくあるが、それが蛇としっかり結びついて語られる例は少ない。しかし、「分離(脱皮)」というモチーフから、それは大いに結びつきうる両者ではある。

各地に見る、「雷が鳴ったとき便所のホウキでイボをとると、すぐとれる(相模西湘地区)」などという俗信と併せ見てもよいだろう。また、目の疣であるものもらいやトラコーマを直す秘術を持つ家が竜蛇を祀る家であったりもする(狛江)。そういった数少ない痕跡のひとつに、この「えぼとり神様」も入るだろう。