小沼を掘り割った道元

群馬県桐生市

昔、日照りが続き、年貢米も上がらないだろうという事態があった。このとき、十七歳になる道元の娘が、自分が赤城の小沼に入れば、どうしても沼を掘り割るだろう、と思い、沼に入ってしまった。

そして、蛇の姿になって出てきて、おれは沼の主になる、と言った。道元は娘を探そうとして、沼を掘り割ったが、見つからなかった。小沼は粕川の水源であり、こうして赤堀一帯の村々は田植えができたという。(勢多郡新里村板橋)

『群馬県史 資料編27 民俗3』より要約

それはこの川および水源の水利権を赤堀家が主張したかった、という面が大きく、伝説群そのものにもその色合いは濃いだろう。蛇体伝説が前面に出る多くの話でも、道元は娘を探すために小沼を掘り割っている。

しかし、それにしても道元に小沼を掘り割らせるために娘は沼に入ったのだ、というほどにそれを強調するこの筋は異例であるといえる。これを主としてしまうと、赤堀が蛇祖伝説を持ってたのだろう、とうような大きな筋が後退してしまうので、それはいただけないが。