釜穴

栃木県那須郡那珂川町

昔、三輪の藤柄沢に水が湧き出す大きな釜のようなところがあり、釜穴と呼ばれた。この水はあたりの水田を潤し、旅人の渇きを癒した。晴天が続いて近くの家の井戸が涸れても、釜穴の水は涸れることがなかったという。

ここから流れる水は堀いっぱいに流れ、いつの頃からか鯰が棲むようになった。近くの人たちは鯰は水神様の使いとして取らなかった。ところが、ある夏に隣村の人たちが大勢で来て、この釜穴にたくさんいる鯰を取ろうとした。

その時、大きな地震が起こって、隣村の人たちは水神様の祟りだと恐れ、びっくりして逃げ出したそうな。また、それ以来、釜穴からの湧き水は少なくなり、魚などはいつの間にかいなくなってしまった。

小川町文化財資料集第9冊
『おがわの昔語り』(小川町教育委員会)より要約

もし、三輪の話ももとは蟹の話であり、地震といえば鯰だろう、という下っての了解によって鯰に置き換わったのだとしたら、そこには蟹を害したので地震が起こった、という話があった、ということになる。

蟹のヌシの話には、それが地殻変動のことを暗示しているのではないかという側面があり、もし本当に鯰が蟹であったとしたら、まさにそのような話であったことになる。もっとも、那須に限らず野州となると、鯰がヌシであるという話も少なくないので、今のところひとつの可能性の話となるが。