小蛇が井 栃木県小山市 塚崎の西寄りに湿地があり、犬も通れないほどの雑草が生い茂り、村の草刈り場になっていた。そこを自然の小堀が南北に通り、赤い水が流れてイモリや赤ドジョウがいた。堀の中ほどに十アールばかりの池があり、蛇がいると伝わり「小蛇(おじゃ)が井」と呼ばれ、近づくものがなかった。 百年ほど前、塚崎の山中某が栗の宮の剣道道場に通った帰り、小蛇が井のそばを通りかかった。すると、草むらを分けて三メートル余もあろうかという蛇が向かってきた。驚いていっさんに逃げ帰ったが、長い間寝込んでしまったという。 栃木県小山市郷土文化研究会『小山の伝説』(第一法規出版)より要約 塚崎も田の広がる土地だが、ここにもご多分にもれずゴルフ場が広がっており、今その堀や沼がどうあるのかというとよくわからない。しかし、話の感じだと、塚崎の田に水を引くのに重要な水場であったような風ではある。 人が大蛇を見るなり害するなりし、祟られ、病み死んでしまうという話は枚挙にいとまなくあるが、実はその本意はというとさまざまなことを語ろうとしているようであり、一定しない。これは、中でもわかりやすい「立ち入り禁止」の一例に見える(「こがら溜の大蛇」なども参照)。 ところで、この小蛇が井はその名を覚えておきたい話でもある。「おじゃ」と名付ける場合、雄蛇の池でそういう場合がまずあるが、越後のほうから関東にかけて蛇を「おじ(叔父・弟)」と呼ぶ場合があり(「槙の屋のおぢ」なども参照)、あるいは、という所でもある。 ツイート