こがら溜の大蛇

栃木県芳賀郡市貝町

大谷津に小河原溜という溜池があって、大蛇が住むという噂があった。村にはともに大尽の倅で仲の良い二人の若者がおり、大蛇を恐れる村人の話を聞いて、そんなもの俺たちで退治してやろう、と面白半分に乗り出した。

鎌やこん棒を持って溜め池に行き、息を殺して身を潜めていると、本当にでっかい蛇が鎌首をもたげ、水から出ると、岸の松の木に上って昼寝を始めた。二人は、仕留めるのは今だ、とばかりに襲い掛かり、大蛇の首を切り落とした。見る見る池は大蛇の血で真っ赤になったという。

ところが、意気揚々と帰った二人だったが、手柄話をする訳でもなく、具合が悪いと寝込んでしまった。そして、手当ての甲斐なく死んでしまったという。それからは二人の家も貧しくなり、人々は大蛇の祟りだと噂し、溜池のそばで大蛇の供養をした。溜池は今もゴルフ場の下にあり、日照りにも涸れずに田畑を潤しているという。

民話きじばとの会『いちかいの民話』より要約

大谷津のゴルフ場の南、昌雲寺の北西に池が見えるが、そこか。大谷津の名の通りの大きな谷戸地形から派生する、小さな谷戸の奥に池が見える。このような所によくある、谷戸に沿って登る田の先端の溜池、といったところか。

話自体は血気に盛る無分別な若い衆が、大蛇を害して祟られた、という枚挙にいとまなくある話。若者がともに土地の大尽の子である二人組、というところがやや気になるか。

しかし、この話は暗示的な所よりも、見たまま聞いたままの端的な面を見るべきものかと思う。すなわち、土地の共有財産であるこがら溜池には勝手に手を出すな、という話だと思われる。伝説の役割というのはまず第一にそのような機能を期待されたものだったろう。