長者屋敷の娘

茨城県那珂市

昔米崎の塙に長者がおり美しい娘がいた。その娘に夜な夜な若い男が通うのだが、娘に聞いても正体を知らず、長者が見張っていてもいつの間にか忍んできて、明け方にはいないのだった。そこで、長者は娘に男の裾に糸を縫いつけておくように言い含めた。

明け方、気付かれぬように長者がその糸をつけていくと、三、四町も離れた三島神社の境内に入って行った。そして男は神主の家とは反対の境内の隅にある御手洗の池の方に消えていった。若者は三島の神の化身であったか、と長者は驚き、土下座してしばらく顔を上げられなかった。

その後、娘がどうなったのか、三島の神が引き続き忍んできたのか、それはさだかではない。長者屋敷というところからは、今でも土器類が出るという。

大録義行『那珂の伝説 上』
(筑波書林)より要約

常陸の那珂、那珂市米崎に今も鎮座する三島神社にかかわる伝説。竜だ蛇だとはいっていないが、まぁ、蛇聟でありましょう。ここの三島さんは伊予三島であるようだ。河野氏の話の筋とは違って典型的な苧環だが、意識されていたのかどうかは分からない。