千代ヶ崎

福島県郡山市

昔、湖南から小櫃へ向かう主要道だった千代ヶ崎に、絶世の美人が住んでおり、千代といった。お千代は村役の若者と仲が良く、夜ごと逢引きが重なりもしたが、若者が公用で旅立つことになってしまった。お千代は毎夜切なく男の帰郷を待っていたが、ある夜、ひょっこりと若者が帰ってきた。

任務が意外と捗ったと男は言い、二人は以前に増して楽しい夜毎を過ごしたのだった。ところが、しばらく後にやってきた若者が、逢いたかった、逢いたかったと繰り返し、旅の苦労を話し出すのだった。今さら何であるかとお千代はいぶかしんだが、若者は今まさに旅から戻ったのだという。

ではこれまで来ていた男は何者なのか。事の次第を聞いて若者も驚いたが、ともかく夜にその若者の来るのを待ち、針を刺して正体を確かめることにした。そして、そのようにして、翌朝点々とある血の跡をたどると、小櫃の山の端の洞穴に続いていた。

お千代が洞穴の入り口で耳を澄ますと、奥から声がする。曰く、自分は若い女を身ごもらせた、と呻くように言っている。すると別の声が、人間は利口だから、菖蒲湯に入り菖蒲酒を飲んで子を堕ろしてしまう、と言っていた。お千代は気が遠くなりそうになりながら戻り、話の通りにしたところ、盥いっぱいの蛇の子を産み落としたという。

お千代は世間体を恥じて、家の裏の川に身を投げた。洞穴の側にも、大きな蛇が死んでいたという。お千代は千代ヶ崎弾正という豪族の娘だったというが、お千代が身投げしたので地名を千代ヶ崎と伝えている。

郡山市教育委員会『郡山の伝説』より要約

こちら蛇聟の筋ではお千代が機織り娘だとは語らないが、こうした蛇聟がまま機織り娘に通うことを思えば、もとはひとつの筋であったものが分かれたのかもしれない。

この特色が、機織姫としてのお千代の話とどう組み合わされるものか。現状わからないが、その構成が見えると、こういった話が伝えようとするものの、重要な一面が表れるかもしれない。